第10話「クロードが動いた」
翌日、クロードが私を呼び止めた。
「リリア、少し話せるか」
「はい」
「アルディアのこと、聞いてもいいか」
(来た)
「どんなことですか」
「最近、あいつが……なんか、こっちを見る回数が増えた気がして」
「増えてますよ、だいぶ前から」
クロードが目を丸くした。
「知ってたのか」
「見ていれば分かります」
「……俺、どうすればいい」
珍しく、クロードが迷っている顔をしていた。いつも堂々としているのに、アルディア様のことになると途端に子供みたいになる。
「どうしたいんですか、クロード様は」
「そばにいたい」
「それだけですか」
「……もっと、ちゃんとそばにいたい」
「伝えてください」
「怖い」
「アルディア様も同じこと言ってました」
クロードが固まった。
「……アルディアが?」
「二人とも同じ場所で止まってます。どっちかが動かないと」
「お前、アルディアとそんな話してたのか」
「友達なので」
クロードがしばらく黙った。
「リリア、お前はいいやつだな」
「それより、動いてください」
「分かった」
「いつ動きますか」
「今日」
「え、今日ですか」
「迷ってたら一生言えない」
(急に決断力が出てきた)
「応援してます」
「ああ」
クロードが歩き出した。アルディア様がいる図書室の方向に。
私はその背中を見送りながら、心の中で全力で応援した。
一時間後、図書室から出てきたクロードを廊下で待っていた。
クロードの顔を見た瞬間、分かった。
耳まで赤かった。
「クロード様」
「……うるさい」
「何も言ってないです」
「顔に書いてある」
「どうでしたか」
クロードが天井を見上げた。
「言った」
「アルディア様は?」
「……泣いた」
「え」
「怖いって言って、でも嬉しいって言って、泣いた」
「それで?」
「それで……まあ、その、なんだ」
「うまくいったんですね」
「うるさい」
でも、口元が笑っていた。
(よかった)
胸の中が、ぱっと明るくなった。ヒロインとして攻略対象を落とした瞬間より、ずっと嬉しかった。
「おめでとうございます、クロード様」
「お前のおかげだ、リリア」
「私は何もしてないです」
「してる。背中を押してくれた」
クロードが、真剣な顔でこちらを見た。
「ありがとう」
「どういたしまして」
クロードが笑って、また図書室の方へ戻っていった。
アルディア様のところへ。
私は一人で廊下に残って、窓の外の青い空を見た。
(ヒロインらしいことが、一個できた気がする)
恋愛じゃないけど。でも、これで良かった。
◇
──リリア・ベルの日記より。
『クロード様が動いた。アルディア様が泣いた。うまくいった。私は廊下で一人でいた。でも、全然寂しくなかった。なんでだろう。多分、幸せだったから』
次話:「セバスチャンが言葉にした」




