9限目 友情
「ではみなさん!序盤に伝えたい2チームでの課題。絶対にやってきてくださいよ?忘れたら?」
「じゃあ俺坊主にする!」
「はぁー?やばすぎあいつ!」
授業も終わり、帰りたい人は帰る、雑談したい人はする。みんなそれぞれの行動を取った。
「黒波も行く?」
こんな退屈な場所、早く帰りたいのに、隣に座っていたきゅうてぃーが話しかけてきた。
「どこに?」
「カラオケ!今からみんなで行くの!」
彼女の周りにはたくさんの人で賑わっていた。みんなばちばちメイクして、髪巻いて。
本当の笑顔で笑っていた。
「えっと...」
「あーごめんごめん!こいつらの紹介してなかったわ!ほらお前ら黒波に名前言えよ!」
きゅうてぃーは周りの奴らを指差した。
「うちは、みく!みーさんって呼ばれてる!よろしく!」
私から見て一番右の机に座ってる女。
「よっ!あーもう調子わっる!」
「おーい!はなも来いよー!」
奥でダーツを楽しんでる女。彼女はスキップをしながら私たちのグループに突進してきた。
「なになに?こいつ新しい子?」
「うん。まだ高2なんだってー」
「えー!?高2?可愛すぎるでしょ!うちの名前ははな!名前なんていうの?」
「黒波」
「漢字はなんて書くの?」
私は立ち上がって黒板に向かった。白色のチョークを持ち、自分の名前を大きく書いた。
「くろはの”くろ“はこれ。”は“はこれ」
解説すると、みんな目を丸くした。
「え!?それ波なみって読むんじゃないん?」
「”は”とも読むんだよ。ばっかじゃないの」
「誰だよバカは!」
「いやはなだろ」
「えー!うっそー!」
みんな大きな声を出して笑った。そのおかげて少し教室が揺れた。
「にしても黒波って字綺麗なんだね〜」
「え?」
字が綺麗なんて、今まで言われたことなかった。文字を書くと言うこともない。こうやって自分から立ち上がって字を書くだなんて本当に久しぶりだった。
「ほんとだ〜。字が綺麗な人って将来うまくいくとか言うよねー。あんたラッキーだよ!」
ラッキー.....私は昔から、ラッキーなんかじゃない。上の姉が頭いいせいで親から圧力を受けてきた。その圧力から逃げるように不良の世界に飛び込んだ。でもこれもあれも全て自分の意思で決めたもの。他人にどうこう言われる筋合いなんてない。
「黒波!黒波!あたしはここみ!基本はここみ!」見てこれ!かわいっしょ!」
ここみという女は自分のネイルを見せてきた。いや、長すぎだろ。変な豹柄の模様だったり真っピンクにキラキラのラメをつけたり。
「うちネイルの検定取るために勉強してるんだー!ここなら語彙力もつけられるし、検定もたくさん紹介してくれるし、えっと.....」
「一石二鳥?」
「それ!やっぱりきゅうてぃーは頭いいなー」
今紹介されたのは、全員で3人。
みく
はな
ここみ
この中で一番頭いいのはきゅうてぃーなんだって。
「どこのカラオケ行きたい?」
ムードメーカーのはなが尋ねてきた。
「いや、カラオケとか分かんないし」
「もしかしてカラオケ行ったことない感じ?」
コクリと頷くと、みんな驚いた。
「うそでしょ!?いまの奴らってカラオケとか行かないの?」
首を縦に振るたびに椅子から転げ落ちるほど驚いた。
オーバーリアクションがすごい人たち。
「じゃあうちらとが初カラオケってことだ!よっしゃー盛り上がってきたー!」
机の上で寝ていたみくが飛び起きてバッグを持った。派手な豹柄のミニバッグ。
はなも、ここみも、きゅうてぃーも、みんなお揃いのバッグを持っていた。
「何ぼーっとしてんだ!行くぞ!」
「あ、うん」
はなとみくに挟まれて肩を組まれた。2人とも香水の匂いが強くて鼻がおかしくなりそう。
「はっさんバイバーイ!」
「さよならと言いなさいよぉ!」
「やっべ怒ってる!逃げろ!」
「まてぃ!」
数学の授業をしてくれた、はっさんが走って追いかけてきた。
「やばいよー!あいつに捕まったら面倒だよ!」
「きゅうてぃー足遅い!」
「黒波逃げろー!」
はっさんに捕まったらめんどくさそう!早く逃げないと———!
「あっはっは!みんな足速いって!」
「もう疲れたよ!」
無事、あの後はっさんから逃げることに成功した。
「やっば。あたし体力減ったわ」
「それなー」
最寄駅に着き、電車を待った。派手な4人組に囲まれながら、みんなスマホをいじっていた。なのに会話は途切れない。不思議な連中だ。
「もうすぐ来まーす」
ここみは手櫛で髪の毛を整えていた。茶髪に流し前髪をしていた。
「ほーい.....って、見て。あいつ、ずっとこっち見てるよ」
はなが言うと、みんな同じとこに視線をやった。
って、あれは———
「黒波?何やってんのさ」
「将也.....」
彼氏の将也がつっ立っていた。
なんでいま、ここにあんたがいんのよ。
「黒波、知り合い?」
「お前ら俺の彼女に何してんだよ」
将也はそう言いながら私の腕を引っ張ってきた。
「ちょ、ちょっと!」
「は?あんた誰?」
「この子、今からうちらと遊ぶんですけど?」
はなとみくが強気な姿勢で前に出てきた。きゅうてぃーとここみは力強くこちらを睨んだ。
「黒波?こいつら誰だよ。こんな奴ら放っておこうぜ。お前どうせまた学校サボって変な連中と遊んでんだろ?」
「変な連中ってあんたね———!」
「やめろ!」
「っ!」
なにお前ら、私が何も言ってないのにぐちゃぐちゃ口出してくんだよ.....って、いつもだったら女を殴ってた。
「触んな」
「は?」
「その手をどけろっつってんだよ」
「は?お前何言って...」
私が将也から離れようとしたとき、すかさずはなが手を伸ばしてきた。そして私の体は4人の渦の中心へといった。
「ほらね聞いたー?黒波はうちらと遊びますってことで、あんたはまたねー」
「おい待てよ!」
「あんなやつ無視しとけばいいよ」
ちょうどきた電車に4人で乗り込んだ。将也の方を見ると、絶望していた。
「あれが彼氏?黒波がいいならいいけど、あたしだったらすぐ別れるなー。友達優先しないで俺とあそぼって、むりむり」
昼時ということもあり、電車内はほとんど人がいなかった。4人に挟まれながら車窓を眺めた。
私は彼女たちに出会ってまだ一日も経ってない。名前しか知らないし、好きな食べ物も、好きな色も分からない。
「ここみは歌が上手いで有名なんだよ!」
でも、4人組のうちの1人であるここみが歌が上手いっていうことだけは知っていた。




