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7限目 彼女に合う場所

「1年前に、両親を亡くしたの」

「は?」

「いやいやそんな暗くなんないで!かなり前の話だし」

暗くならないでって言っても、両親が死んだって。この女は平気な顔で言ってる。

「そこからグレちゃって。今で言う黒波みたいな感じだよね。他校の奴と喧嘩したり、授業抜け出したり。学校にはほとんど行ってなかったね」

うそだ。

こんな清純派そうな女の子が元ヤンキーだったって。そんなわけないでしょ。きっと虚言だ。だって真面目に勉強してる見た目してるし。

「金髪時代が懐かしいですな」

「うるっさ!」

「あんた、金髪だったの?」

「うん。あんたみたいな」

琴子はそう言いながら私の髪の毛を触ってきた。

「おい触んなよ!」

「ごめんて〜」

少し更生したからすごとか思った自分がアホみたい。髪の毛触ってくるのは美容師だけで言いっての。

「すっごい変わったでしょ。わたし」

「うん。まぁ変わったんじゃない?わたしには関係ないことだけど」

ポケットにしまっておいたスマホを取り出して誰かから連絡が来てないか確認した。

特に、誰からもない。

「あ!黒波さ、試しに授業受けてみなよ!」

「なんで」

「ここに入っても入らなくてもとりあえず経験になるよ!いいっしょ佐々先?」

琴子は机の縁に手を置きながら跳ねた。すっげぇ笑顔でさ、大きな口開けて子供みたい。

「あ!いま笑った!?」

「はぁ?別に笑ってねぇし。目腐ってんじゃないの?」

「言い方ひっど〜。先生からも何か言ってよ!」

「私から何も。お二人の言い争いが新しい風を感じます」

何言ってんのこいつ。風?言い回しが先生っぽくて嫌いだ。

「おもろっ。先生?黒波はどこの授業でやらせるべき?いきなり上のクラスってのは無理だよね?」

「そうですね。では、琴子さんが一番いいと思うクラスにしてみては?」

「わたしが!?やりたいやりたいっ!」

うっわまた出た変な子供癖。これが好きじゃない。むしろストレスに感じる。

「じゃあさ!黒波にお勧めのクラスがあるんだけど」

「へぇ〜」

「テンションひっく!今から行くクラスはテンション高い子しかいないよ?そんなんじゃ埋もれちゃうから気をつけなよ」

琴子は行くよ!と声を高くして私の腕を強く引っ張った。

私は痛い痛いと言ったものの、そんな忠告も届かず。革鞄を急いで持って彼女について行った。

隣にいた佐々木という奴は私たちを止めることなく無言のままだった。何か言えばよかったのにとも思ったけど、いまは目の前のことが気になった。

「どこ向かってるの?」

「もうすぐ着くんだけどね。あんたみたいな子がたっくさんいるよ」

「わたしみたいな子?」

「うん...はい着いたよ〜」

いくつもの階段を降りた先にあったのは、一つの教室の前。扉には、スプレー缶で描いたような文字で、”喧嘩上等”と描かれてあった。

「いやここ明らかに教室じゃないでしょ」

「いや、中入ったらすごいよ?」

「一体何がしたいわけ?」

「わたしはあんたの可能性に賭けてるだけ。嫌なら逃げてもいいし辞めたっていい。でも、まぁ経験っしょ?なんでも経験」

こいつはよく、”経験”という言葉を口にする。何事も経験。経験経験って何度も。

経験ってなんなの?

何がそんなに大事なの?

経験なんて、何の意味もない。時間の無駄。

「あ、いま授業中ですか?」

琴子は躊躇なく扉を開けていた。

「こっちゃん!どうしたの?」

「紹介したい人がいて。今日限りの体験授業の子なんだけどいい?」

「もちろんもちろん!入りなさーい!」

「お邪魔しまーす!わー!みんな久しぶり!元気だった?」

え、ここって、塾、だよね?

教室中は派手に荒らされていた。金属パッドが何本も地面に転がっていた。みんな制服を着ているみたいだが、どうも学生に見えないような人が何人もいる。

「このクラスはね、全員が成人なんだ。学生時代、苦しい思いをした人たちが集まってみんなで職につけるくらいの学力を身につけるっていうクラス。だからほら。あの人とか全身タトゥーだよ」

普段から見慣れているせいか、不思議と安心感を覚えた。実家に帰ってきたような。

不良界隈ではかなり顔が効く方だと思っている。この世界にはとっくに慣れていた。

「あれぇ?新人ちゃん?」

「かわいー!あの子まだ高校生だよ!」

教室内はあっという間にお祭り騒ぎになった。うるさいわうるさいんだけど、こういう人たちのうるささってなんか良いんだよな〜。

「じゃっ。また来ますね」

「え、いやいや!行かないでよっ!」

は?なんで置いてくんだよ!

教室は一瞬静かになった。みんなと目が合う。

「あんた名前は!」

「黒波」

「かわいー!うちらのとこおいでよ!」

一番後ろに座っている女番長みたいな人が指を指してきた。

ムカつく。

「は?」

「黒波ちゃんってあれじゃない?剛ちゃんのとこの喧嘩屋」

1人の女が、”剛”という名前を出した。

「あんた、もしかして剛さん?」

見慣れた顔が見え、彼の元に近づいた。

「お前、(だん)さんのとこの?」

「おぉ!あんたが剛さん?弾の元で喧嘩屋やってます。黒波と言います」

剛連合。私たちの街ではかなり有名な不良グループ。そこの元総長が、いた。

彼はすでに引退しており、誰も行方を知らなかった。でもまさかこんな近くにいたなんて。

「弾さんは元気かい?」

「まぁ、そこそこ」

私は一応、剛連合の敵チームの弾連合、というところに所属している。そこで喧嘩屋という看板で他チームと喧嘩をしている。

「いや、なんで剛さんこんなとこにいるんですか?」

「あーこりゃあ琴子ちゃんから何も聞いてない感じだな。おい!誰かこいつにここのことについて話してやってくれ!」

剛さんの掛け声で1人の女が話を始めた。

「あたし、きゅうてぃーって言います!よろしく!」

「.....」

「暗いねー。まぁいっか。ここは、椿塾っていう塾。上から3つのクラスに分かれているの。私たちみたいな社会不適合者を更生させようとするクラスがここ。ほとんど成人した人たちで、主に会社に勤めるための知識を得るところ。もちろん大学受験に特化した勉強もするからご心配なく」

「はぁ」

「もう上2つのクラスはもっとハイレベルなクラス。私立難関とか、国立?とか。うちらには届かない世界でよ」

3つのクラス。ここは一番低いってことか。

「まぁ普通の体験授業だったら真ん中のクラスなんだけど、あんたは見るからに不良ちゃんみたいだからこかに飛ばされたってわけね」

きゅうてぃーっていう女は明るくて、一番偉いみたいな感じだった。この人には逆らえない感じのタイプ。

「それじゃあ黒波さんはあそこの席で授業を受けてね」

「ほーい」

ここは一体、なんなんだ?





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