6限目 佐々木先生
琴子に腕を引っ張られながらあそこに着いた。
琴子は慣れた手つきでカードを使い、扉を開けて中に入った。
「先生先生!みてみて!」
「ちょっとあんた痛いんだよ!そんな強く引っ張るなっての」
すると、見覚えのある老婆が立っていた。
「あら、この間の子じゃない!」
「そうそう!黒波ちゃんね〜」
老婆は私に近づき、小さく会釈をした。こんな時の対応が分からないから、適当に手を上げた。隣にいる琴子がクスッと笑ってきたから強く肩を叩いた。
「足を運んでくださり、ありがとうございます」
「あー連れて来られた感じなんで」
「あらっ!琴子さんそんな強引に...?」
「ちょなんでそうなるの!佐々木先生に連れてこいって言われたから!てか佐々木先生はどこにいるの?」
お互いズカズカ話すな。こりゃあ入る隙もない。老婆も老婆で高校生の早口言葉のような話し方についてきてる。不思議な光景だ。
あくびをする私に気がついたのか、琴子は老婆を指差した。
「あ、黒波ごめんね。この人がここの管理人の洋子先生。担当教科は数学と化学ね」
「みなさんからは洋ちゃんと呼ばれております。黒波さんのお好きな呼び方で大丈夫ですよ」
「はぁ...」
洋子。地味な名前だな。ほんとに令和を生きる人ですか?って感じ。こんなババアの名前なんて呼びたくないね。
「佐々木先生は外に出ているので、こちらの部屋でお待ちください」
「サンキュー」
私たちは別の部屋に案内された。待合室2と書かれていた。
「あったけ〜。好きなとこ座ってて」
言われた通り、適当な場所に座った。座り心地、意外と悪くない。
「よっこらせと。黒波はどの教科が得意なの?」
離れたところに座っている琴子。スマホをいじりながら話しかけてきた。
「なんであんたそんな遠くに座ってんの?」
「いつもここの席に座ってるから。あんたこそそんな硬いパイプ椅子で嫌じゃないの?」
「別に。こういう椅子のほうが好きだから」
「珍しっ。ていうか私の質問答えてよ」
「あれ、なんだっけ?」
「得意科目!」
私はあ〜!と頷いた。
しばらく考えてみることにした。得意な科目って言われても、通知表すら見たことないような私がそんなもんあるわけない。授業を1から6限まで受けたのはいつだろうか。最近は出席確認をしたら早退するって流れだからな〜。テストも寝て終わるし。
「そんなもんないよ。授業まともに受けたことないし。逆にあんたは?」
「私はね、数学と物理かなー。洋ちゃんの影響で数学が好きになったの」
「へ〜。あんたって頭いいの?」
「頭いいっていうか、やり方が分かるからやってて楽しいって感じ。楽しくなるとちゃんと結果が出るからまた勉強したくなる。このリサイクルすごいでしょ」
「なんにもすごくない。時間の無駄」
琴子はため息をつき、口笛を吹いた。頭がいい奴ってのは昔から地頭がいいってこと。もう私は勉強そのものができない。なんの説得力にもなんない。
「琴子さん遅れましたね。彼女が、黒波さん」
「おっそいよ〜!待ちくたびれたわ!」
部屋の外から、あの男先生が来た。みんなが言う、佐々木って奴?かな。
彼は目の前に座った。琴子は遠くから見てるまま。
「お待たせしました。初めまして。私はここ、椿塾の講師の佐々木と申します。よろしくお願いします」
「あの、あの女が私を無理やり連れてきたの。どうにかしろよな」
「琴子さん、言った通り、昔のあなたみたいですね」
昔のあなた?誰のこと?
「おいそれを言うな!完全なる黒歴史だから!」
「すみません。つい...」
まただ。2人で仲良く話してる。私を放っておいて。気分が悪くなるわ。
「この子、昔はバイクブンブンのヤンキーだったんだよ」
佐々木は琴子を指差して言った。
「え?あんたが?想像できねぇわ」
「だろー?ついこの間までの話なんだよー」
「ついこの間でもない!一年ちょい前くらいだからね?!」
こいつもヤンキーだったのか。めちゃくちゃ更正してるじゃん。ガリ勉になってるし。
だから、私が変な奴に絡まれた時も助けてくれたんだ。納得納得。
「で、なんで私をここに連れてきたの?」
早く帰りたいし、早く寝たい。こんな茶番付き合ってられないわ。
「黒波は学校では嫌われてるし、怖がられてるし、無視されてるし。相当辛い思いしてるでしょ?」
「てめぇに何がわかんだよ。何もわかんないくせに語るな」
「分かるよ。私も不良だった時、担任に罵倒されては呼び出されてはで、もうほんとムカついたよ」
そう!担任に呼び出されるのが一番ムカつくんだよな。分かる分かる。
「担任に呼び出された時が人生マックスくらいのイラつきなんだよ。あんたも同じ?」
「そうそう!なんでうち?ってなるのよ!だから担任のあそこ、殴ってやった」
こいつ、マジかよ.....流石の私でもそんなことしないのに。やっぱりこいつは周りとは違うな。
「あんたはさ、どうしてそんなキャラ変したの?」
いますっごい楽しかったのに、その一言のせいで部屋が冷たくなった気がした。なんか急に雰囲気が変わった。なんかまずいこと言っちゃった?
「う〜んとね、話すと長くなるんだけど。実は1年前に———」




