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4限目 苦労

「あんた...なんでここにいんのよ!」

目の前には琴子が現れた。こんなとこに来るなんて、こんな奴が来るような場所じゃない。

『なんでてめぇ。俺は今そっちの奴と話してんだよ。嬢ちゃんはどきな』

「どかないよ。この子の友達だもん。友達は助け合う関係でしょ?」

琴子は動じることなく男の腕を掴んでいた。この状況に怯えないんなんておかしい。

しばらく静けさが続くと、男は観念したかのように手を振り解いた。

『くっ、はなせ!次は覚えてろよ!』

男は案外諦めてがよく、スタスタとその場を離れた。なんで?私だったらもっと殴り合ってたのに。琴子が現れた瞬間、男の目が変わった気がした。

「いった」

手のひらがヒリヒリと痛んだ。手は血だらけで、頬の皮は垂れ下がっていた。

「怪我してるじゃん!急いで治さないと!」

「いいって。触んじゃねぇよ」

「怪我は放置しておくと、そこから最近が入って腫れができるの。佐々木先生に診てもらお!」


「触んなって言ってたんだろ!」


あ、やってしまった。琴子を突き放した手を押さえた。彼女は動じることなく、少し驚いたがまた笑顔に戻った。

「ごめんね。そんなに干渉するつもりはなかったの」

「.....」

何も言えない。言う気にもなれない。

無言のまま彼女の横を通ってその場を立ち去った。

後ろを振り返ったら、またきっと目が合う。見ないようにただひたすらに前を向いた。




「もしもし胡桃?今日の夜行けなくなったわ」

『えー!なんで?』

「通りすがりのジジイと喧嘩になって、イラついてるだけ」

『そっか。わたし、黒波がいないとつまんないんだけど。それに今日から他の店舗からも客が来るんだよ?あんたはこの辺じゃ有名な女なんだからさ、来なよ』

「むりむり。もうめんどいからじゃーねー」

『ちょちょっと———!』

スマホを投げてベッドに飛び込んだ。

「うっざ」

常に何かにイラついてる。別に対象はない。ただムカムカするだけ。

トイレに行くために部屋を出ると、下から家族の声がした。

『でね!学校の友達が———』

『はっはっは!』

笑って話してる。あの女の話で、2人とも大声で笑ってる。あんな声、私には聞かせてくれたこと一度もないのに。

逃げるように寝室に行った。

「.....」

わたしって、人を笑わせることもできない。あの女はできて、なんで私はできないことばかりなの。

また、涙が溢れる。

人前で抑えてた分だけ涙の数が止まらない。止められない。袖でひたすら抑えるしかできなかった。

「ひっひっ...ふぅ.....」

真っ暗な部屋で、部屋の角で息を殺しながら泣いた。何度泣けば、楽になられるのかな。涙の数だけ強くなれるなんて嘘っぱち。言うなら涙の数だけ辛くなるだけ。

「でんわ?もしもし」

『黒波〜。会いたーい』

「どうしたの」

『イチャイチャしたいだけなんよ。うちきてよ』

今は夜の20時半。きっと将也の家族はいないんだろう。

「めんどくさい」

『えー。俺どうしたらいいのよ』

「知らねぇよ。自分でどうにかしろ」

『何その言い方えっろ』

「うっざ」

『来ないとそっち凸るよ?』

「は。それだけは絶対無理」

『じゃあ来て』

「...分かった」

『うっしゃー!楽しみにしてるわ!』

将也から電話がかかってきて、あっちから切られる。私は下着だけ着替えて身軽な格好で部屋を出た。

「黒波?こんな時間にどこ行くの?」

「.....」

「黒波!母さんの言うことを聞きなさい」

「.....」

「ちょっと?どこ行くの!」

ババアが何かを言い切る前に扉を閉めた。あいつらの話を聞くくらいなら将也といた方が幸せ。

結局私は求められるだけ。将也のおもちゃになっていく。

1人で、泣きながら、夜道を歩いた。




今日は珍しく朝早く起きてしまった。最近寝付けないことが多い。

両親にぐちぐち何か言われる前に家を出た。

きっと外は寒いからマフラーを巻いて、それでも周りの音は聞きたくないからイヤホンで音楽を聴いた。革バッグの中にはメイク道具やアイロンやらで重たくなった。

「さっむ...」

今日は氷点下まで下がるらしい。ニュースキャスターが言ってた。受験と被る生徒が多いから気をつけるようにと。そんな温かい言葉がXでトレンド入りしている。

頑張れという言葉さえ言えば、みんなが注目するんだ。ただ一言だけにみんな敏感になってる。つまんな。

最近は学校もうざい。高3を全力でサポートするあの感じ、団体戦ですよ感出しててむかつく。きっと私の学年はだれも興味ないでしょ。

出席だけして、また抜け出そっと。

やっぱり、朝早く着いたから教室には誰もいなかった。一番後後ろの窓側の席に座った。カーテンと窓を開けて日差しを浴びた。

今日は学校抜けたあと、何しよっかな。昨日は結局クラブに行けなかったから行こっかな。


「おはよ!」


「あんた、違うクラスでしょ?」

琴子が教室にやってきた。こいつは私のクラスではない。

「友達だから会いにきただけでしょ〜!てか今日放課後塾いこーよ!」

「は?」

「佐々木先生がやたらと黒波を連れて来いって。あそこ、いろんな事情がある子が集まる塾なの。」

「はぁ。それ、私に関係ある話?」

「う〜ん、私にはいまいちわからないけど、佐々木先生曰く非行の道に走っちゃう子って普通の家庭じゃないんだって」

とんだ失礼な人。もっと他の言い方あるんじゃないの?てか、私のことは放っておいていいのに。

「私のことはいいから、あんたはちゃんと勉強しな。こんなアホに付き合ってないで」

強く突き放して荷物を持ち教室を出ようとした。

「出席確認まではいないと!」

「は?」

「欠席よりも、出席して早退の方が進級しやすいよ。ある程度学校に出席したらあとは早退すればいい。無断で欠席は一番ダメなことだよ!」

そんなの、分かってる。だから最近は出席するようにしてる。担任のジジイに言われた。高3に進級さえすれば、卒業だけはさせてやると。そのためには出席しろって。

「あんたに、関係ないでしょ」

「.....」

もうっ朝からイラつく。あの女はなんなの?いつまでも私にまとわりついて。 何をしたいのかさっぱり分からない。

「でも.....」

こんな話しかけてくれる人、初めてだっけ。





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