3限目 神塾・椿塾
「早くきてよ!」
「うざいな。わたしは歩くのが遅いんだよ」
琴子はリュックのスクバを背負いながらスタスタと前を歩いた。
めんどくさ。なんでこんな女と一緒にしなきゃいけないんだよ。学校終わってさいこー、とか思ってたらこの状況はなに?
しかも女は一番ムカつく元気タイプ。はつらつな子は大っ嫌いだ。
「黒波ちゃんのつけてるそのピアスって、どこで買ったの?わたしも実はピアスつけてみたくてさ」
「あんた、ピアス興味あんの?」
「めちゃめちゃあるよ!でも、親に大学受かるまでダメって言われてて。でも、1人でこっそり見に行ったりもするんだ〜」
「そっか。こんなんつけててもなんの意味もないけどね。あんたみたいな正統派はつける必要ない」
きっぱり言うと、琴子は少し間を置いてからすぐにまた笑顔になった。
「やっぱり黒波ちゃんって面白いわ!」
「は?」
「やっぱり先生に会わせた方がいい!」
「先生?」
「そこを曲がったらすぐのところだよ!」
何言ってんだか。大した用じゃなかったらさっさと帰ろっと。あ、でも帰っても愚痴言われるだけだから、結局は将也のところしかないのか.....
「着いたよ!ここ」
「ここって?」
彼女と行き着いた場所は、怪しすぎる建物だった。
「ここ、大丈夫なところ?」
「やっぱりその反応になるよね。わたしも最初はあれ?って思った。けど中は全然違うから!」
琴子はウキウキしながら中に入ってった。
用件も聞かないまま着いてきてしまったけど、何この建物。彼女みたいな子が来るような建物ではない。上の階に行くならまだしも、地下に向かったから余計にそう思った。
「おい!この建物本当に大丈夫なのかよ!」
ピピ!
「入って入って!紹介者はカード無しで入れるから」
琴子はカードと呼ばれるものを使って地下の扉を開けた。もう腕を掴まれて引っ張られていたため後戻りはできなかった。
意を決して、彼女と同じように中に入った。
「先生おはよー!」
「おはようございます...あぁー!!佐々木先生!琴子さんがお、お友達を!」
.....ん?
まず、出迎えてくれたのはメガネをかけ、腰を曲げたおばあちゃんだった。
「洋ちゃんそんなに珍しいこと?別にいいじゃーん」
「よくないよくない!佐々木先生———!」
ちょっと、情報過多で死にそうなんですけど。私は琴子の方を見て目で訴えた。
「ん?どうした?」
「いや、ここってなに?」
「へへ。もうすぐ分かるよ!」
彼女はおばあちゃんが出て行った扉を指差した。
キキィ———
「佐々木先生!この方です!」
「.....琴子さん、彼女は?」
異彩な雰囲気を漂わせた少しガタイのいい男が歩いてきた。この私でも、ひょいっと倒せそう。
「同じ高校の、橘黒波ちゃん!」
「ほぉ〜。それはまた珍しいな!琴子さんの紹介なんて!」
「でっしょ〜!この子ね、学年で1番の不良なんだよ!」
は?
隣にいた琴子はベラベラと私情を話した。しかも知らない男に。
「てめぇ何言ってんだよ」
彼女の肩を押して部屋から出ようとした。
こんな茶番、付き合ってられねぇわ。さっさと出て胡桃のところに行こっと。
「ちょちょちょ!なんで出てこうとするの?体験授業だけ受けてきなよ!」
「体験授業?あんた何言ってんの?てか、その手、どけてもらっていい?」
手を振り解こうとしたが、案外力が強くて解けなかった。なんで力強いの?この女。
「何言ってんのって、ここ、塾だよ?」
「塾?こんなとこが?あんたの目、ほんとに大丈夫?」
「いやいや、入り口に書いてあったし」
すると、前に立っていたおばあちゃんが口を開けた。
「ここは...椿塾。この方、佐々木先生が塾長の、大学受験専門塾です」
ゆったりとした口調で話すもんだから、ついイライラした。さっさと話さない奴は大嫌いだ。
「なんでわたしをこんなとこに連れてくんの?ただの時間の無断だったわ」
今度はちゃんと振り解いて外に出た。
「マジでなんなの?ムカつく」
うざいうざいうざい!
ガチャァァン!
近くにあったゴミ缶を蹴り飛ばした。中身が飛び出て異臭を放つ。
「おえっ」
こんなところ、さっさと離れよう。すっかり学校からも離れて、あまり来たことない路地裏に迷い込んだ。
ここどこだよ。あの女かいなければ、こんなことにはならなかった。
「おいおい姉ちゃん!こんなとこで何やってんのー?」
「あ?だれ?」
知らないジジイ軍団に話しかけられてさらにイラつきが止まらない。
ガン飛ばしてつま先ですねを蹴った。
「いったぁ?!てめぇ何すんだよ!」
「うわっ.....!くそじじい!」
思い切り拳で殴られた。さらに殴り返すと、また殴り返された。
痛い思いをして、結局はボロボロになる。なんの成果も出ない戦い方。
心の中でずっと溜まってた鬱憤を晴らすためにやるしかない。それは肉体的なものでも。そうやって今まで生きてきたんだ。私にはもう、明るい未来はない。
「しぶてぇな!これで最後だっ!」
立ちくらみがした直後、最後の一撃がきそうになった。せめて意識を飛ばさないように、身構えた。
「.....琴子?!」
「あなた、わたしの友達になにしてるの?」
不気味にも笑いながら、殴りかかりそうな手を止めていた。




