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10限目 本当の楽しいって?

「最初だれ歌うー?」

「ここみっしょ!いけいけ!」

池袋サンシャインにあるカラオケ館にやってきた。渋谷や原宿にはよく行くが、池袋は完全アウェイだった。

エレベーターから降りた瞬間から、はなとみくが先陣を切って受付をしてくれた。その間、ここみときゅうてぃーは何を歌うか話していた。

「ここみはいつものあれっしょ?」

「当たり前だろ。あんたは?」

「うちは歌苦手だからなー。かと言って聞き専はきついしなー。まぁなんかしら歌うわ」

カラオケという場所が新鮮すぎて、思わず何度も周りを見渡した。すぐ横に置いてある棚にはいくつものタンバリンとマラカスが並べてあった。

こんなもの誰が使うんだか。

「黒波ドリンクバーいるよね?」

「あ、うん」

「おっけー。ドリンクバー5個で!ありがとうごさいまーす!」

2人は会計を終えてコップを5人分持っていた。

「やばーい!カラオケ久しぶりすぎる!」

みくはスキップをしながら廊下を走った。

「きゅうてぃーは?コーラ。はなは、コーラ。ここみも、コーラっしょ。黒波は?」

そして1人ずつ飲み物を聞いった。私は自分でやるよと言ったけど、しつこく聞いてきたのでとりあえずコーラと答えた。

「うそでしょみんなコーラ?」

「分からなくなるやつじゃーん!」

「どうせお前らが間違うんだろ?」

はなとここみが口を揃えてきゅうてぃーとみくを指差した。

「いやいやお前らだらな!?」

今度はきゅうてぃーが2人を指差して大きな声を出した。

「はいはい早く進んでくださーい!」

この中でもまだ真面目な方のここみが私たちの背中を押した。真面目と言っても世間から見たら.....って感じだけど。

「はい着きましたー」

「おっけー!歌っちゃっていいっすか?」

丸いミラーがきらきらと光る部屋に着いた瞬間、ここみがマイクを持ち始めた。

「いけここみー!!ふぉ〜!!!!!!」

「みなさーん!!!盛り上がる準備はできてますかーい!?」

「いえぇーーーい!!!!」

「いくぞっ!ワン!ツー!スリー!フォー!」

そして普通のカラオケ館は突然、ライブのように盛り上がった。

「いいぞここみー!!!」

そして、ここみは死ぬほど歌が上手い。本当に歌手ってくらいあのレベル。聞いててとっても気持ちがいい。

歌はついに山場。まだ一曲目なのに、こんなに叫んだら喉が死ぬって。

「黒波いけー!!!!」

「ふぉー!!!」

「みんな!大好きだーーーー!!!!!」

「うちらも!好き!好き!愛してるー!!」

そして謎コール。

「おっけー!カラオケさいっっこうーー!!」

みんなで飛んで、飛んで飛んで飛びまくった。そのせいで脇腹がヒリヒリなった。

「はいはいどんどん予約してってー!」

「マック食べよー」

カラオケ内は持ち込みオッケーらしいので、滅多に行かないマクドナルドに寄ってみんなで買って机の上に広げた。色んな味のバーガーがあった。ポテトにナゲット、飲み物もたっくさん。

こんな光景、初めて見た。

「あんたってマックも行かないの?」

歌を歌終えて浸ってるここみが話しかけてきた。2人で話してる間も3人が勝手に歌い出してる。なんかもう自由な感じ。しかも2人で話してても気まずさを全く感じなかった。

「ほとんど行ったことない」

「なんで?」

「なんで?脂っこいものとか好きじゃないから」

「ふ〜ん。そんな人生終わりだな」

「は?」

「ん?」

口いっぱいにバーガーがあるのにそこにさらにポテトを突っ込んで、笑いながら食ってる。ここみは当たり前に派手なメイクをしているのに、清楚系な女に見える。

なんでかな。

雰囲気?オーラ?

黒髪ロングで前髪は流してる。

それは悔しいくらい似合ってた。

「おい!つぎ黒波の番!早く!」

「えちょっと待って、いま食ってる途中!」

「いいから立って!はい3、2、1!!!」

あーもう!歌は上手くないから歌いたくないのに。

「いいよー!!」

「上手い上手い!伸ばせ伸ばせ!!!」

ぜっったいに下手くそなのに、こいつらはぜっったいに褒めてくれる。

別に褒められてもなんとも思わない。

「黒波上手いじゃん!」

「んなわけねぇだろう」

「はい次は…..きゅうてぃー!!!」

こいつらまだ歌うんか。きっつーー。もう声出ないって。

「おい黒波も立て!!」

でも無理やり立てさせられて、また飛ぶ。その間ずっと叫んで、叫んで喉が死ぬかと思うくらい。

あるとき、ふとした瞬間に自分の額を拭いた。

「あっつ…..」

めっちゃ汗かいてて。私ってこんなに汗かけるんだ。

普段は家に帰らずにそこら辺のもの適当に食べてるから代謝が低い。そのせいで汗というものがほとんど出なくなっていた。

「ふぅー!一旦休憩で」

全員で歌いきり、ソファに腰掛けた。

「この後プリ行くっしょ?」

「行くけど、この後バイト入っててさ、6時までなら大丈夫っす」

「おっけー」

ここみはネイル屋さんで受付バイトをしている。別にここみ自身がネイルをしているってわけじゃないのに、よく3人は彼女のネイル屋さんに行くらしい。

「友達のバイト姿とかおもろすぎるっしょ」

「それな!絶対見に行く!」

「黒波はバイトとかしてんの?」

「ん?してないよ」

てかマクドナルドのポテトってこんなに美味かったんだ。

「って食べすぎでしょ!完全に初見の人じゃん!」

「黒波って天然だよなー。自分で気づかない良いタイプの。はなの友達にさ、絶対作ってるだろー!っていう自称天然の女いたじゃん」

「あーあいつね。うちもだいっっきらい」

やっぱり4人はバランスのいい4人な気がする。

盛り上げ隊長のはなとみく。その2人を静かに見守るお母さん的存在のきゅうてぃー。たまにネジ外れするムードメーカーのここみ。

「なんで、お前らわたしのこと誘ってくれたの」

「.....」

知らぬ間に自分の口から言葉が出ていた。言おうと思ったわけでもないのに、なんで。

「明らかにわたし浮いてるし、4人の方がバランスがいいのに、なんで?」

全員が一瞬黙り込んだ後、きゅうてぃーが呟いた。

「お前が昔のうちらみたいだからだよ」

「は?」

「うちとみくとここみは成人。はなは高3だけどもう受験も諦め。ね?」

「なんでそれを普通に言うねん」

はな以外の3人は意地悪に笑った。

「あたしさ〜、本当になんであのとき勉強しなかったんだろうってずっと後悔してる。勉強はした分だけ結果が出るって、コスパ最強なのにさ。遊んで遊んで遊びまくったら高校生終わってたわ」

きゅうてぃーは首を後ろにやってため息をついた。

続いてここみが口を開けた。

「あんたはまだ高2。あと一年ある。一回でいいから、勉強本気でやってみたら?日本は知識が多い奴だけが生き残る社会になってるんだよ」

「勉強なんて、クソみたいだ。やって何のためになる?高校を卒業できたらわたしは弾さんの元で働く」

「黒波さ、本当に一回でも勉強と向き合ったことある?」

私は首を横に振った。

「なんでまだやったことないことを断言しちゃうの?やってみなきゃ分かんないじゃん」

確かにそうだけど。

私はいつも逃げてる。自分の将来を見るのが怖い。だから楽な方に行く。生きることだけを考えて、自分の意思に従って。周りのことなんて見たことない。

「明日提出の課題だっけ?赤と青のやつ。はっさん全員提出するまで返さない人だからさ、絶対やって来いよ?」

なんで圧かけるの?別に行かないし、行くわけない。

「行かねーよ」

もう脇腹が痛くて痛くて仕方なかった。

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