1限目 努力の過去
努力は、平気で私たちを裏切る。だから私は、努力なんて信じたくなかった。
なんで、なんで結果はついてこないの。血を吐く思いで努力して、毎日単語覚えて、何回も方程式を解いて.....なのに結果はE判定。
私は強がりだから、みんなみたいに素直になれないから、一人で部屋で泣き叫ぶ。
「なんで....なんでよ」
声にならない声で心の底の思いを物にぶつけた。椅子や机は壊れて、床には破かれた模試の結果ばかり。
マークシートは全部埋めた。なのにこんな結果ある?採点者の見間違いとかじゃなくて?
紙がしわくちゃになるほど握りしめて、頭を何度も床に叩きつけた。
これが、受験なのか。
私は何のために勉強するの。誰のために努力するの。
毎日が地獄で、誘惑にも負けて投げ出したくなる。
でも、それでも、それでも、私は絶対に負けたくない。みんなが口を揃えて言う。
『不良が勉強なんて出来ない』
この非常識、塗り替えてやる。
私は一人じゃない。模試の結果がなんだ。次に繋げればいいじゃないか。
私は自分を律し、再び机に向かった。
机に向かっている時の私は、学校で見せる私とは、まるで別人だった。
2026年、冬。
『おい橘!聞いてんのかぁ?』
「チッ。うぜぇ」
『返事をしろ!』
「うっせぇな!ジジイは黙っとけ!」
床に置いてある革鞄を肩にかけて職員室を出た。木造のスライド式扉がキシキシと音を鳴らした。
「うざい.....うざいうざいうざい!」
『ちょっと何すんのよ!』
「あ?」
たまたま廊下を歩いていた女子と肩がぶつかった。なんか文句を言われたから、とりあえず睨んでおいた。
「ちゃんと前見て歩いてもらっていい?その目、なんのためについてんの?」
そう吐き捨ててその場を去った。
担任のジジイから怒鳴られて無性にイライラしてるのに、さらにこの有様。少し学校をサボっただけでなんであんなに怒られなきゃいけねぇんだっての。自分が行きたい時に行けばいいでしょ。
まだ二限の休み時間。残りの授業は、いいや。面倒だし。丁度嫌いな授業だったからよかった~。
校舎を出て中庭から裏口に続く道を歩いた。
「.....もしもし胡桃?いま暇?」
『うん暇だけど、どうした?』
「学校ブッチしたんだけどさ。どっか遊びに行かね?」
『いいけど午後から予定あるんだよね』
「あいつ?あの~.....愛知県の男?」
『そうそう!初めて会うんだけどさ、ちょー楽しみ!』
「うっざ。いいなお前も彼氏できんのか。羨まっ」
『黒波もいるじゃん』
「あぁ~アイツはただの遊び相手だから」
『はいはいそうですか。じゃまたね。今度遊ぼ』
「お疲れー」
電話をきり、スマホを手に持ったまま誰も通らないであろう裏門についた。正門は警備がいてうざいからね。
行きつけのクラブで仲間の胡桃がいないんじゃ今日はつまんねぇ日だな。また勢いで学校サボったし、家に帰れば何か言われるし、どうしよっかな~。
そもそも、あのジジイが怒鳴らなければ、こんなことにはならなかった。
『お前って何もできないんだな』
『不良に勉強なんて教えられない』
『こいつが社会不適合者ってやつか』
むかつく。
今更、過去に言われた言葉を思い出した。この世から私の名前が消えたような扱いを受けた。あいつから学んだことは一つ。
ジジイにとって私は、人間以下なんだと。
ただあいつが何であんなに偉そうなのかが分からないだけ。脅せばいいと思ってんの?顔を思い出しただけで反吐が出る。
こんな時は、アイツにでも会いに行くか。彼氏の将也にメールを入れて連絡が来るのを待った。
遅い足取りで歩きながら、最寄駅の少し手前まで来た時、目の前に広がる裏山を眺めた。こんなにも人がいないのは珍しかった。若干田舎で育ったが、この時間帯はもう少し賑わっている。
裏山は堂々とそびえ立ち、人の目を引いた。
試しに登ってみるか。
そんな思いが勝手に浮かんだ。別に登りたくもない。けど体は自然と山に向かって歩いていた。
生きているうちに勝手に身についた身体能力のおかげですいすいと登れた。
登った先にあった高台から見える街の景色は悔しいほど.....
いつの日からか感情がなくなり、何も思わない。何が綺麗で何が素晴らしいのかが分からなくなった。
「むかつく」
山が不自然に静かで、誰かから見られている気がした。もちろん、私一人なのに。
「.....ばか」
わたしはただ、ただ、みんなと普通に接したいだけなのに。どうしていつもうまくいかないのかなぁ。
頭の中で思ってることもたくさんある。でも、そんなにうまくいかないの。




