第67話 「みんな、ごめんね!」
「小夏ちゃあああああああああんっ! 久しぶりだね~っ!!」
「わ、わぁぁぁぁっ!? か、佳穂ちゃんせんぱいぃぃっ!?」
放課後のグラウンドで、開幕早々佳穂が小夏に抱きついた。
その俊敏さは普段のほんわかしている佳穂からは想像が出来ない程に素早くて、今すぐマネージャーから選手にならないかと思ってしまうぐらいだ。
「久しぶり~! 本当に久しぶりだよ~!! 一週間ぶり~? 元気だった~!?」
「げ、元気だったらその……休んで……ない……っスぅ……」
「それもそうだねぇ~!!」
久しぶりの再会に感激した佳穂が小夏に頬ずりしている。
良いな、俺もやりたい。
後で帰ったらやらせてもらおう……。
「おう鷹臣! 上手くいったみたいじゃねーか!」
「部長! おかげさまで……って、もう話しましたよね?」
「実際にこの目で見てみねーとなー!!」
そんな二人の様子を眺めていると、後ろから部長が笑顔で俺に話しかけてきた。
佳穂や部長との会話からも分かる通り、小夏が学校に復帰するのは一週間ぶりなのである。
まあ、何て言うか、その……若気の至りと言うか。
二人とも感極まって、風邪だったことをすっかり忘れていたと言うか……。
色々、色々あって、体調が戻りつつあった小夏の風邪が悪化したりして、はい……何度反省した事か分からない。
その時に小夏からも「私も悪かったから……」と何度言われた事か……。
やっぱり、人間すぐには変われないようだ。
「佳穂ちゃん先輩ばっかりズルいですよ! 私達にももっと小夏ちゃんを堪能させてください!」
「そうですよ佳穂ちゃん先輩! 私達はクラスメイトなので、この一週間深刻な小夏ちゃん成分不足だったんです!」
「そ、それに楠木先輩との甘々看病生活を聞きながら、羨ましさと脳破壊による破壊と再生の創生で整うんです! 効きますよ~!!」
「みんなそんな事思ってたの!?」
そんな事をしみじみ思っていると、小夏の周りに同級生のクラスメイト女子部員達もわらわらとやってきた。
小夏は相変わらずの大人気でもみくちゃにされている。
だけどちょっと友達というには妙な感情が入り乱れているのは気のせいだろうか?
「くぅ~、これこれ! やっぱり陸上部はこうでなくちゃ!」
「俺達に女っ気は無いけど部活にはある! しかも可愛い女の子同士だし!」
「ふっ、甘いな! そんな事にうつつを抜かしているからお前たちは速くなれないんだ! そうだろ鷹臣! 走る事命のお前なら分かってくれるよな!!」
「やっぱりもう少し休ませるべきだったと、お前たちを見て真剣に思ってるよ」
すると今度はいつもの男子部員達が俺の周りにやってきた。
同じ長距離のチームメイトだし良い奴らなんだけど、小夏に変な視線を向けるなら話は別だ。
最後の一人はもうずっとストイックだから、ずっとこのままでいてほしい。
お前だけが陸上部の希望だよ。
「よーし! 全員揃ったな! 集まれお前らー!!」
いつの間にか俺から離れていた部長が手を挙げて大声を出した。
俺を含めてよく訓練された部員達は、誰一人として文句を言わず部長の前に集まっていく。
やっぱり部長の人望は凄いなと俺は心の中で思った。
「一! 二! 三! んー、全員! 小夏も元気になったし陸上部完全復活だ!」
かなりのどんぶり勘定で部員の数を数える部長。
だけどこの人の事だからきっと全員を把握している筈だ。
部長はうんうんと、腰に手を当てて頷きながら。
「よーし! じゃあ鷹臣! 来い!」
「はい!?」
「小夏もな!」
「わ、私もっスか!?」
突然、俺達が呼びだされたんだ。
「おーし! 今日は二人の復帰祝いだ! お前ら、気合入れていくぞー!!」
『お~!!』
「え、えぇ!?」
「な、何でぇっ!?」
何がどうなっているかも分からないまま、部長の号令に佳穂を筆頭とした他の部員が声を挙げる。
それに俺と小夏はただただ困惑していた。
「ほら鷹臣、何か言え」
「何すかその無茶ぶり!?」
「無茶じゃねーよ? 陸上部だから引退が遅いけどよー、そもそも普通の運動部だったらお前もう新部長だぜー?」
「よっ! 陸上部次期部長~!!」
呆れた表情で部長の正論パンチが飛んでくる。
それは確かにその通りなんだけど、佳穂のその言葉はいらなかった。
「もちろん小夏もな!」
「わ、私も!?」
「当たり前だろ! 鷹臣はともかく、みんな心配してたんだからよー!」
「は、はいっスぅ……!」
「よっ! 陸上部のアイドル~!!」
そして流れ弾が小夏にも飛んでいく。
確かに小夏はアイドル級に可愛いから、佳穂の言う言葉はごもっともだった。
「せ、せんぱぁい……」
「任せろ」
だけど小夏は明るくなったとはいえ、まだまだ注目を浴びるのには慣れていない。
だから俺が先に前に出るんだ。
「みんな、本当にごめんな!」
『え?』
笑顔で、ある事を企みながら。
そんな俺の言葉に、部員たち全員が首を傾げた。
「……あっ」
ただ一人、小夏を除いて。
「ほら、小夏?」
「うん! みんな、本当にごめんね!」
『え、小夏ちゃんも……?』
そして俺の意図を理解した小夏も一歩前に出て、笑顔でみんなに謝った。
けどやっぱり、当然全員の頭に浮かぶの単純な疑問である。
「なあ、何で二人して謝ってんだ?」
ついには俺達の隣にいた部長が聞いてきた。
みんなも知りたいのか、うんうんと頷いている。
「それは……」
「えへへ……」
俺と小夏は顔を見合わせて、お互いに笑う。
そうして自然と二人で手を、握り合って――。
「明日から、俺達!」
「部活も学校も、お休みするっス~!!」
――笑顔でそう、宣言するのだった。




