第66話 「おにいちゃん、それ……プロポーズ……?」
「お、おにいちゃんっ! そ、それぇ……」
小夏と一緒に歩いていきたい。
そう俺に言われた小夏は今までで一番目を見開いて、一番顔を赤くした。
健康的に日焼けした頬がこれまでにないぐらい赤くなって、赤さをどんどん更新していってる。
小夏は声と手を震わせて、ペタンと座りながら俺の顔を見つめた。
「プ、プロポーズ……?」
「……そうとも言えるな」
「そ、そうともってぇ……!?」
「もう家族なんだし、死んでも離れないし、その通りだなって」
「う、き、きゅぅ~~~~~~~~っ……!!」
小夏が鳴いた。
泣くじゃなくて、鳴き声の方。
夏休みから一緒に暮らすようになって数ヶ月経つのにまだまだ新しい発見がある。
その度に、俺は小夏を好きになっていた。
「嫌か?」
「い、嫌じゃ……無いけどぉ……き、急過ぎない!?」
「俺からしたら、小夏が高校に入学して会いに来てくれた事も、両親が再婚して家族になった事も全部急だったよ」
「それも、そうだけどぉ……!!」
急展開ばかりの人生だ。
ただ走り過ぎるだけじゃなく、前や横や後ろから色々な事が起きていく。
それが風だったり景色だったり車だったり人だったり事故だったり小夏だったりと様々だけど、それを俺は小夏と一緒に進んで行きたいんだ。
「……私で、良いの?」
「小夏じゃなきゃ嫌だな」
「……ほんとに?」
「小夏がいてくれなかったら、そもそも今の俺はここにいないし」
小夏には感謝してもしきれない。
小夏が俺をもう一度立ち上がらせてくれた。
小夏がいたからこそ、こうして頑張ろうって思えるんだ。
「……でも、私たち、まだ高校生だよ?」
「大丈夫。もう家族だし」
「……いっぱい、迷惑、かけちゃうよ?」
「安心しろ。俺もいっぱいかける」
そう、俺も一緒だ。
だって俺も小夏と一緒で弱いから。
一人じゃ何も出来なくて、一人で悩み続けて、立ち止まる。
それを二人で補い合って、歩いていきたいんだ。
「小夏と一緒が良いんだ。俺の大好きな、後輩で、義妹な、優しくて、健気で、真面目で、時々空回りして自己嫌悪に陥るけど……そんな小夏と、一緒にいたいんだ」
「……う、うぁぅぅ……」
「小夏は、俺と一緒じゃ嫌か?」
「いっ、嫌だったらこうしてないよぉ……っ!!」
ボロボロと、小夏の瞳から涙が溢れてくる。
メガネ越しのクリっとした大きな瞳から頬を伝う涙は、昨日見た涙とはまるっきり逆の意味の涙だった。
「でも……でも私……! みんなに……迷惑、かけるよ……! おにいちゃんにも、お義父さんにも……お、お母さんにもっ!!」
「迷惑だなんて誰も思ってなかったよ。義母さんもさ、小夏に早く元気になってねって言ってたし」
「でも……私の、私のせいで……お義母さんが……たお、れて……」
「小夏」
「あぅっ!?」
小夏を強く抱きしめる。
胸の中で震える小夏の背中を、俺はそっと手で擦った。
「わがまま言ったって良いじゃん」
「…………え?」
「だって俺達、ずっと我慢してきたんだからさ。ちょっとぐらい迷惑かけて、手間かけたって誰も怒らないよ」
「……で、でも」
「むしろ俺だって、寝起きに突撃されたり風呂に突撃されたりで、小夏にかなりわがままされてるしな」
「そ、それはぁ……」
あれがわがままじゃなければ、なんだって言うんだ。
めちゃくちゃ嬉しいわがままだけどさ……!
「そもそも小夏は自分の意志を通して志望校を変えて俺に会いに来たんだろ? それってさ、めちゃくちゃ凄いわがままじゃないか?」
「…………うぅ」
「それにほら、今俺が小夏にユニフォーム姿になってもらってメガネをかけてもらったのだって、俺のわがまま」
「……うぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
小夏が唸る。
それはきっと、悔しそうな唸りだ。
そこにはもう、辛いとか、悲しいとか、そう言う気持ちは一切無くて。
「……ずるいよ」
小夏が、俺の胸の中で呟く。
「そ、そうやっていっつも先に行くんだもん……! わた、私だって頑張ってるのに、おにいちゃん……せんぱいばっかり、先に……!!」
「俺は、おにいちゃんでせんぱいだからな」
「そういうところもズルいのっ!!」
「……だな」
小夏は怒りながら、俺の背中に手を回してくる
全身で感じる小夏のぬくもり。
震える声と涙は、見なくても分かった。
「だからさ。これからは一緒に歩いていこう。わがままに。もう先には行かないからさ。悩む時は一緒に悩んで、答えを出して……俺と小夏で、乗り越えていきたい」
「…………うん」
俺は佳穂のように、悩んだら即行動が出来ないし、助けも呼べない。
だから手を差し伸べてくれる人がほしいんだ。
「俺だって、小夏が思ってる以上に弱いからさ……ごめんな? 実は、俺、めちゃくちゃ強がってばかりなんだ」
「…………うん」
俺は部長のように、理想の先輩として、猪突猛進に振舞えるほど強くない。
だから隣で支えてくれる人が欲しいんだ。
「義母さんが倒れて、小夏が泣いて……俺が、俺がなんとかしなきゃって、思った。でもさ、俺一人の力じゃ……何も出来なかったんだよ」
「…………ううん」
俺は小夏のように、想いのままに、気持ちだけで動けない。
だから、だから……。
「……だから助けてほしいんだ。俺が困った時は小夏が、小夏が困った時は俺が助けるからさ……。二人で、二人で一緒に……歩いていこう」
「…………うん」
俺も弱いんだ。
父さんと一緒で、義母さんとも一緒で、小夏とも……同じように。
「小夏」
「……うん」
だから。
「俺と一緒に、これからも歩いてくれるか?」
「……うん、うんっ!」
もう一度、俺は小夏を力強く抱きしめる。
「……弱いおにいちゃんで、せんぱいでごめんな?」
「そんなことないっ! 世界で一番……カッコよくて、つよくて、頼りになるっ……せんぱい、で……おにいちゃん……だもん……!!」
小夏も俺を、震える手でせいいっぱい抱きしめ返してくれた。
その想いが、その気持ちが嬉しくて、胸の奥が、すごく……熱くなって。
「小夏、ありがとう。小夏が後輩で、義妹で……本当に、良かった」
「お、おに……おにいちゃ……っ、た、たかおみ……せん、ぱぁぁぁぁぁいっっ!」
気づけば俺の目からも涙が流れていた。
そうしてどっちの涙か分からなくなるぐらい、俺達は二人で泣き合ったんだ。




