第65話 「せんぱい、えっちすぎるっス……」
「せんぱいがえっちすぎるっス……」
「上だけで良かったのに下まで着替えてくれた小夏に言われたくないな」
「さ、先回りっスよぉ! どーせ後で下もって要求されるんスからぁ!」
とんだ風評被害である。
だけど小夏は律儀に上下セパレートの陸上ユニフォームに着替えてくれた。
赤を基調としたユニフォームは毎日着ているから日焼けしていない部分はしっかりと隠れてしまったが、ほんの少しだけ着崩れして覗く部分がまた味わい深い。
「……それに、せんぱいの視線が……生々しいっス」
「それについては申し訳ない」
「認められるとそれはそれで反応に困るんスよぉ!?」
ベッドにペタンと女の子座りをした小夏が両手で胸元を抱きしめるように隠す。
人の事をえっちか言いながらそうやって煽るような姿をするのは、小夏自身も自分のえっちさを理解していないようだった。
だけどこれを言うとまた新しい火種になるので、黙っておく。
ただこのままでも平行線なのは確かなので……。
「小夏」
「……今度はなんスか?」
「そのままメガネをかけて義妹になってくれないか?」
「どんどんせんぱいが変態さんになっていくっス!?」
新しい要求をする事にした。
変態じゃない、ただ単純に、俺の趣味だ。
「すまん……家にいる小夏の可愛さで、メガネって良いな……って思えたんだ」
「なんの告白っスか!? 性癖っスか!?」
「頼む! これが最後! 最後のお願いだから!!」
「……これが、最後っスよぉ?」
しぶしぶ小夏は、ユニフォームに着替える際に外したメガネをまたかけてくれた。
クリっとした瞳の上にかかる縁なしのメガネは、小夏の印象をガラッと変える。
それはそうと、ちょっとチョロくて心配になるのもまた事実だ。
……俺が守れば良いか。
「うぅ……えっちへんたいおにいちゃんせんぱい」
「……甘んじて受け入れよう」
「義妹になると、せんぱいは甘くなるよね……」
「世界一守りたくなるからかな」
「あっ、うゅ、ふぁぁぁ……!?」
「背中、拭くぞ?」
俺にしか効かない罵倒を受け入れた後、小夏の汗を拭く事を再開する。
シチュエーションはともかくとして、ユニフォームに着替えてくれた事により何て言うかより自然に思えた。
だって運動したら汗を拭くのを当然の事だから。
まあ人の汗を拭くって、中々無いのかもしれないけど……。
「きちくえっちへんたいやさしいおにいちゃんせんぱい……」
「良い子と悪い子が同時に出てるぞ」
「……日焼けフェチ」
「事実は時に人を傷つけるんだぞ?」
色々並べられた罵倒も効くが、シンプル過ぎる罵倒もそれはそれで凶器だった。
「うぅ……私が寝てる間にいったい何があったの……」
「……色々あった」
「具体的には……?」
「……色々、あったんだ」
言ったらまた小夏に怒られてしまう。
口が裂けても部長と二人きりでシャワーを浴びたとは言えないのだ。
「うぅ……おにいちゃんがまた、先に行っちゃう……」
だけどその気遣いが、また小夏の肩を落とさせてしまった。
こうして俺の前でだけは弱さを見せてくれるようになったのも一つの成長だろう。
「なあ、小夏」
「……今度はなに?」
そう、俺の前だけは。
「これからは一緒に歩いていかないか?」
「!!!!!!!!????????」
それをこれからは、一緒に乗り越えていきたいんだ。




