第64話 「おにいちゃんせんぱいっ!?」
「おっおおおおおぉおぉおおっ、おにいちゃんせんぱいっ!?」
「おにいちゃんせんぱい?」
小夏の顔がさっきより赤くなる。
赤くなるって言うよりかは爆発しそうな感じだった。
やっぱりまだ熱があるんだと、俺はボタンを外しながらそう思った。
「動くと危ないぞ?」
「あ、あぶな……あぅ、あうぅぅ……っ!?」
小夏がギュっと目を閉じる。
その間も俺はプチプチとボタンを外し、寝間着をはだけさせる事に成功した。
服の内側に隠れていた、発育の良い、健康的に日焼けした小夏の身体。
少しイケない気持ちになりながらも、俺はそれを堪えて言葉を続けた。
「……ほら、汗かいたろ? 背中拭くから、後ろ向いてくれ」
「…………汗?」
「汗」
「…………紛らわしいよぉっ!?」
何故か怒られてしまった。
いや、自分で背中は拭けないだろ……。
そうは言いながらも小夏はベッドの上で後ろを向いてくれる。
怒ったからか、耳の先まで真っ赤だった。
「寝間着も脱がすぞ?」
「……うん」
――シュルって音がしたかしないかは別として。
小夏の寝間着を脱がして、その背中が露わになった。
服の内側ではなく、明かりの下に晒される華奢な背中。
日焼けした肩とそうでない場所の境目がクッキリしていて、何故世界中にある芸術作品に日焼けした作品が無いのかと疑問に思った。
寝る用のゆったりとしたスポーツブラのような下着も、陸上ユニフォームとそこまで大きさが変わらない筈なのに妙ないかがわしさを感じてしまう。
日焼けした肌にかかる、絹のように白い素肌、の上にかかる橋のように白い下着。
白が何百色もあるという理屈を、俺は今この瞬間だけ世界で一番実感していた。
「……下着も、脱がして良いか?」
「おにいちゃんんっ!?」
「す、すまん! 服の下の汗とか、気になって……」
嘘だ。
実際は白のコントラストが俺を変な気持ちにさせるからである。
「それなら、良いけど……」
「良いのかっ!?」
「……うん」
どうしよう、通ってしまった。
まさかその反応から通るとは思っていなかった。
もしかしたら熱で正常な判断が出来ないのかもしれない。
だってほら、もう限界だと思ってた耳がまだ赤くなるんだもん。
「こ、これで……良い?」
「…………はい」
敬語、ふたたび。
脱がすとは言ったが、俺が狼狽えている間に小夏が一人で脱いでいた。
下から上にまくり上げるように、両手をばんざいしてスポーツブラを外した小夏の後ろ姿を、俺は一生忘れないだろう。
ごめん父さん。
さっきの驚いた顔、もう上書きされちゃったかもしれない。
「か、風邪が悪化するといけないからな……」
「か、看病の為……だもんね……」
誰に取り繕っているのかは分からない言い訳を並べながら、俺は小夏の背中の汗を拭いていく。
小夏が寝ている間に用意しておいた濡れタオルをその背中にそっと当てた。
まず日焼けしていなかった、下着に隠れていた白い背中にタオルを当てたのには、特に意味はない。
「んっ……ひゃぅ……」
「…………」
だけどやっぱりくすぐったいみたいだった。。
服の下に普段守られているところ、しかも一番ガードが堅い部分なのでそこを弄られ……触られると弱いらしい。
一応言っておくが素手ではなく、ちゃんとタオルで拭いている。
「おに……ちゃっ……んん……」
「…………」
看病してるだけなのに、とてもイケない気持ちになってくる。
いくら俺でも体調を崩した小夏をどうこうする気は一切無いのに、小夏が無意識に俺を揺さぶってくる。
普段は頑張って後輩モードになったり義妹モードで工夫したりと創意工夫とあの手この手で俺を揺さぶってくるが、天然の破壊力には敵わなかった。
これはマズい、とにかく……非常にマズいのである。
「……なあ、小夏」
だから俺は日焼けしていない白い背中を拭いた時点で、次の提案をする事にした。
「このままユニフォーム、着てくれないか?」
「おにいちゃんは私をどうしたいのっ!?」
いつも着てるユニフォームなら俺が落ち着けると思っただけなのに……。
小夏は振り返りながら目をクワっと見開いて怒った。
当然だけど、耳だけじゃなくその顔も真っ赤で。
「まあ、良いっス……けどぉ……」
怒りながら、着替えてくれたんだ。




