第63話 「小夏、お願いがあるんだ」
※ヒロイン、小夏視点。
「ん、んん……」
暗い部屋で、ゆっくり目が覚めていく感覚があった。
頭がぼんやりしていたけれど、お昼に飲んだお薬のおかげか身体は少し軽かった。
でもまだちょっと身体が熱くて、汗をかいてるみたいだった。
「小夏、起きたか?」
「んん……?」
そんな私に、優しく声をかけてくれる、せんぱいの声がする。
聞いてると安心するその声で、私の頭をそっと撫でてくれて……。
「熱は、まだちょっとあるみたいだな……」
「……せ、せんっ、せんぱいいいいいいいっ!?」
私は、ベッドの上で目を見開いて飛び跳ねた。
何でかって言えば、せんぱいが寝てる私のおでこに自分のおでこを当ててたから。
起きたら、目の前に、せんぱいの、カッコいい、顔。
私はまた身体が熱くなるのを感じた。
「おはよう小夏。まあ、もう夜だけど」
「そ、それそれ……それどころじゃないスよぉ!?」
慌てたせいで口調がグチャグチャになってる。
それもこれも全部せんぱいのせいだった。
私は急いで枕元にあるメガネケースからメガネをかけてせんぱいを見る。
するとせんぱいは、驚いた顔をしながら私のベッドの上に乗ってた。
「ぱ、パーソナルスペース!?」
「小夏、まさか熱で頭が……」
「お、起きていきなりおにいちゃんせんぱいがいるのは反則だよぉ!?」
「俺のベッドに忍び込んでた小夏がそれを言うのか……?」
それはそれ、これはこれ。
せんぱいはせんぱい、おにいちゃんはおにいちゃんだった。
私の気持ちも考えてほしい。
昨日と一昨日は、あんな事が、あったのに……。
「……お母さんは?」
「めちゃくちゃ元気になってたよ」
「…………そっか」
嬉しいのに、苦しい。
だってお母さんが倒れちゃったのは、私のせいで……。
「それと、俺と小夏が一緒に風呂に入ってたの、知ってた」
「……そ、え? え、えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!?」
「後、夕食の時にテーブルの下で小夏が俺の足に悪戯をしてたのも」
「待ってせんぱい! 待っておにいちゃん! 待って待って待って!!」
頭が、頭が頭が頭が頭が頭が追いつかない。
私のせいでお母さんが倒れちゃったと思ってたら、私がせんぱいとお風呂に入ってる事を知ってて、え……?
「知ってたのお母さん!?」
「……恋人だって事まで、全部」
「あ、あうぅうぅうぅぅぅ……!?」
なんで、え、なんで……?
夢かもしれない、もしかしたらこれはまだ夢なのかもしれない。
だって私は、私のせいでお母さんが倒れちゃって、私が体調悪くして、せんぱいも辛そうで、それで……。
「今度、小夏と一緒に挨拶してねって言われたよ……」
「どういう意味で!?」
「……そう言う意味で」
「あわわわわわわわわわわぁぁぁぁぁっ!?」
頭が爆発しそうだった。
キャパシティオーバーとかそんな優しいものじゃない。
これならまだお昼に病院に行く途中のタクシーの揺れで気持ち悪くなった事の方が百倍増しだもん……。
「……穴があったら、入りたいぃ」
「ベッドには包まってるぞ」
「そういうことじゃないよぉ……!?」
恥ずかしい、恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい……!
なんで、どうしてより恥ずかしいが先に来ちゃう。
だってこの前、お風呂でせんぱいにギュって押さえつけられちゃった時、お母さんも外で気づいてたって事だもんね!?
あぅ、あぅぅぅぅ……!
なんでぇ……どうしてぇ……!
「……小夏、恥ずかしがってるところ悪いんだけど。お願いがあるんだ」
「…………うん。何でも言って。今の私なら、どんな辱めも……大丈夫そう……」
メンタルがボロボロだった。
昨日とは、今朝とは違う理由でメンタルがボロボロだった。
恥ずかしいを通り越しているかもしれなくて、だからある意味で自暴自棄に大胆な事を言えちゃったりしちゃったりして……。
「辱めって……まあ、良いや」
でもそれは、せんぱいを……おにいちゃんを信じてるからでもあって……。
「じゃあ、服……脱がすぞ?」
「…………ふぇっ!?」
そんなせんぱいが、優しく私の寝間着に……手を、かけちゃったんだ。




