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俺に懐いていた日焼けボーイッシュな後輩が、健気でしおらしい義理の妹になってしまった  作者: ゆめいげつ
最終章 歩み出す先輩後輩のこれから

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第62話 『鷹臣、ありがとな……』

「まさか義母さんが知ってたなんて……」


 あんなに良い雰囲気で病院を後にしたのに。

 俺の頭の中はまだその事で頭がいっぱいだった。


 俺と小夏の関係を知った上で見守ってくれていたのは嬉しい。

 だけど一緒の風呂に入っていた事までバレていたのは顔から火が出るぐらいに恥ずかしかった。

 ……それをきっと小夏も知ったら、同じ反応をすると思う。


 大事なのは、それを笑って語り合う事だった。


「ただいま」


 家に帰る頃には日が完全に傾き出していた。

 六時間目ぐらいに学校から病院に走って、そこで義母さんと話をしてからまた家にUターンしたので当然と言えば当然だろう。


 朝はあんなに無意識に登校していたのに、思い返すと濃密な一日だった気がする。

 楽々浦と書かれた表札をくぐり、玄関の鍵は……開いていた。


 一階のリビングに、父さんがいたからだ。


「おお、鷹臣。おかえり」

「ただいま父さん。小夏は大丈夫?」

「あぁ、上で寝てるよ。病院の先生も、疲れから来る風邪だと言ってた」

「そっか。ありがとう」

「……おぉ」


 ソファーに座っていた父さんの隣に俺も座る。

 まさか俺も座ると思っていなかったのか、父さんは少し意外そうな顔をした。


「……朝より、顔色が良いじゃないか」

「……学校で、色々あってさ」

「……色々か」

「……うん。色々」


 短い言葉を、父さんと交わす。

 本当に色々あり過ぎて、どう説明したら良いか分からないというのもあった。

 ていうか昼休みに体育館裏に呼び出されて何度もバツマークを受けた挙句に授業をサボって街中を走り回って女子と一緒にシャワーを浴びたとか、説明出来ないって。


「……ねえ、父さん」


 だから俺から話しかける。

 父さんが言う通り、朝の俺だったらそんな事をする余裕が無かっただろう。


「……どうした?」


 俺を見る父さんの顔も、疲れて見える。

 こうして落ち着いてみれば、余裕が無いのは父さんも同じだったんだ。


「義母さんの、どこが好きなの?」

「……い、いきなりだな!?」


 なので遠慮せず、佳穂や部長のように揺さぶってみる。

 でもこれぐらい聞くのは、実の息子として当然の権利だろう。


 両家顔合わせの時は小夏がいた衝撃でそれどころじゃなかったし……。


「だって義母さん、高校生の俺から見てもめちゃくちゃ学生に見えるし……父さんが道を踏み外したんじゃないかって思って」

「そ、それは! 惚れた女が、偶然、小さかったからで……」

「…………」


 ……ヤバい、ちょっと聞いて後悔した。

 十七年近く生きてきて、男手一つで俺を育ててくれた父親の照れ顔を見るのは結構クるものがある。


「……でも、放っておけなかったんだよ」


 その雰囲気を、すぐに父さんは吹き飛ばして。


「こういうと聞こえは悪いが、まだまだ男だらけの職場で、頑張ってる美春……母さんの姿が眩しかったんだ。彼女は、美春は俺と同じものを持っている……そう感じたんだよ。話してみたらすぐに意気投合してさ、俺と同じように仕事が好きで今は一人で子供を育ててるって言ってさ……守ってやりたいと、思ったんだ」


 疲れた顔だけど、その表情は義母さんへの想いで溢れているように見えた。

 父さんは父さんで、義母さんに色々と思うところがあったのだろう。

 だけど義母さんが言っていた出会いを言わないのは、やっぱり父さんらしい。


 不器用だけど真っ直ぐな、自慢の父さんだ。


「そっか。義母さんのこと、好きなんだね」

「あぁ……。好きだからこそ、俺が頑張らなきゃなって思って、何も出来てなかったと……痛感してるよ……」


 ソファーに座りながら、ゆっくりと父さんがうなだれる。

 やっぱり俺と同じように、責任を感じてしまっているようだった。


「うん。義母さんもそう言ってた」

「……美春が? はは、そうだよな……俺は何もしてやれなくて」

「とぉ~っても真面目で不器用で、気を落としてるだろうからガツーンと言っておいてってさ」

「…………え?」

「愛されてるね、父さん」

「…………あぁ」


 恥ずかしそうに、父さんが顔を手で覆う。

 小夏が甘口カレーしか食べられない事と言い、また勝った気分だった。


「まだ時間あるからさ、お見舞い。行ってきなよ」

「……良いのか?」

「小夏を病院に連れて行ってくれたけど、お見舞いは行けてないんでしょ?」


 まあそれは義母さんとの会話で分かった事だけど、言わない。

 そもそも好き合っているのに、俺の許可がいる方がおかしいんだ。


「……ありがとな、鷹臣」

「良いから良いから。俺の方こそ、小夏を見てくれてありがとう」


 少しだけ目に生気が宿った父さんが立ち上がる。

 ひょっとしてさっきまでの俺も、同じような顔をしていたのだろうか?


 そう考えると、本当に親子って感じがして……嬉しいやら恥ずかしいやらで。


「夕飯買って帰るから、待っててくれるか?」

「もちろん! 楽々浦家は良くも悪くも自家製料理祭りだったから、久しぶりの総菜弁当大歓迎!!」


 男だけだった時の暮らしを思い出す。

 食卓に並ぶのがプラスチック容器に入った茶色い総菜ばっかりだったけど、あれはあれで最高だった。


「了解。久しぶりのコロッケメンチカツ祭り、楽しみにしとけよ?」


 そう言って父さんも笑いながらリビングの扉に手をかける。


「うん。あ、そうだ父さん」

「ん?」


 そんな父さんの背中に、俺も笑いかけながら。


「今度さ……紹介したい人が、いるんだ」

「…………なに?」


 そう言った時の父さんの驚いた顔は、多分きっと一生忘れないと思った。

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