第61話 『鷹臣くん、よろしくねぇ』
「し、知ってた!? って、いつから!?」
「し~っ! 鷹臣くん。病室では、静かにだよぉ?」
「あ、ご、ごめんなさい……」
思わず大きな声を出してしまって、それを義母さんに叱られる。
幸いにも他の入院患者さんは寝ていたり病室の外に出ていたりしていて、俺は母親に叱られるのなんて生まれて初めてで……じゃなくて!?
「え、えっと……何で……知って、るんです、か……?」
何故か敬語になってしまった。
ずっと隠せていると思ってたのに、バレていたとなればこうもなるもので……。
「ふふふ。だって顔合わせの時からぁ、二人とも明らかに様子がおかしかったんだもん。それにほらぁ、去年小夏が急に志望校を変えたいって言ったり陸上を始めたって言うのもあってぇ、ピーンと来てねぇ」
「ぴ、ピーンと……」
そ、それだけで……?
それだけで、分かってしまうものなのだろうか……?
「一緒に住むようになって色々あったけどぉ、確信したのはこの前の夜かなぁ?」
「こ、この前の夜とは……?」
「鷹臣くん、小夏と一緒にお風呂に入ってたでしょぉ?」
「いぃっ!?」
「ふふふぅ。脱衣所に二人の服が合ったからぁ、バレバレだったよぉ~?」
今すぐこの場から消えてしまいたかった。
知ってた、え、お風呂も?
いやあれは小夏が乱入してきたからで俺は……いやバスタオルが脱げそうになった小夏を壁にドンして口を手で押さえたりしたけれど……!
「…………すみません、本当に、すみません」
「謝らなくて大丈夫だよぉ」
何もしても現行犯で、謝るしか出来なかった。
それを知ってて何も言わない義母さんが、女神様にも、閻魔大王様にも見える。
「でもぉ。いくら好き合ってるからって言っても、お食事中にテーブルの下で悪戯し合うのはどうかと思うなぁ?」
「……はい」
バレてる、全部バレてる。
一緒に風呂に入った事も、夕食の時に小夏が俺の足にカリカリと悪戯を仕掛けてきたのも、全部バレているんだ。
恥ずかしくて、申し訳なくてついには謝る事すら出来なくなってしまう。
ある意味で告白をしに来たのに、それ以上の辱めを受けている気分だった。
「うふふ。二人が仲良しでぇ、とぉっても嬉しいよぉ」
「…………怒らないん、ですか?」
「怒らないよぉ。だって小夏、理由は教えてくれなかったけど親切な人に助けてもらったってぇ、何度も何度も嬉しそうに言ってたんだもん」
その言葉を聞いて恥ずかしかった気持ちがスッと引いていく。
もちろん悪い意味では無くて、胸の奥が……温かくなっていくんだ。
「……はい。その、小夏に、俺も……助けてもらいまして……」
「そうみたいだねぇ」
「……それも、分かるんですか?」
「何となくだけどねぇ。夏休み中一緒に暮らすようになってぇ……。鷹臣くん、本当に小夏の事が好きなんだ、大切にしてくれてるんだなぁ……って、見てるだけで伝わってきたんだも~ん」
「……バレバレ、でした?」
「バレバレだったねぇ」
「…………」
ガクッと俺は脱力した。
まさか最初から最後まで、全部バレているとは思わないじゃないか。
今までずっと、再婚する両親の為に内緒にしようって我慢してきたのに、義母さんには全てバレバレだったなんて、そん……な?
「と、父さんは……? 父さんも知ってるんですか!?」
「うふふふふぅ。飛鷹さんはそういうところ鈍いからなぁ。まだ二人のことぉ、仲良い兄妹だって安心してたよぉ?」
「そ、そうですか……」
ホッとしたような、そうじゃないような。
これで父さんにまでバレていたらもうどうしようもなかった事だろう。
いや今でもかなりアレだけど。
「だからねぇ。今度はぁ、二人で一緒に……教えに来てほしいなぁ」
「義母さん……」
そんな俺に、美春さんは優しく微笑んでくれる。
その笑みは、母親としての心からの優しい微笑みだった。
「うふふぅ。娘さんを俺にくださいって聞けるんだねぇ」
「そ、それはまだ気が早くないですか!?」
「だってもう家族だも~ん。そういうことでしょお?」
「…………はい」
しかし抜かりは無い。
無さ過ぎて困ったが、本気で困りはしなかった。
完全に外堀が埋まっただけである。
俺がやる事は、何も変わらなかった。
「……今度。小夏と一緒に挨拶するから、義母さんも早く……元気になってね」
「わかりましたぁ。小夏にも早く元気になってねぇって言っておいてぇ? あ、多分飛鷹さんも気を落としてるだろうからぁ、ガツーンと言っておいてねぇ」
「……父さんも?」
「飛鷹さん。優しいけどぉ、とぉ~っても真面目で不器用だからねぇ」
「……あはは。分かったよ、義母さん」
何故か、グサッと俺の胸に何かが突き刺さった。
人の振り見て我が振り直せじゃないけれど、やっぱり親子なんだなって感じだ。
「鷹臣くん」
苦笑いを浮かべる俺に、義母さんが笑いかける。
「小夏のこと、これからもよろしくねぇ」
「……俺の方こそ、よろしくお願いします」
そんな義母さんに、俺もそっと笑い返したんだ。




