第57話 『鷹臣、褒めてんだよバーカッ!!』
「おらおら鷹臣! まだいけんだろ! 顔上げろ顔ー!!」
「ちょ、ちょっと待ってください……!」
「あぁんっ!? お前レース中に前を走る相手に待てって言うのかー!?」
「そ、そうじゃなくてぇ――!!」
声を高らかにして、俺は叫ぶ。
「今! 五時間目の授業中ですけどー!!」
学校から駅へと続く、大通りの道を走りながら。
――絶賛、サボり中だった。
「安心しろ鷹臣ー!」
俺の前を先行する部長が叫ぶ。
「オレもう推薦校決まってっからー!!」
「俺はぁ!?」
何も安心できなかった。
もう一度言う。
昼休み、突然現れたユニフォーム姿の部長に連行された俺は、絶賛午後からの授業をサボって昼の街中を走らされていたんだ。
「おー! 良いなそれー!!」
「な、何が良いんすか!?」
「人の心配じゃなくて、自分の心配してるところだよー!!」
「な、ならペース上げないでくださいよっ……!?」
何度でも言うけど、化け物かこの人は……!
佳穂が言う通り走ってみて分かったんだが、やっぱり俺も疲れている。
だけどそんな俺の状況を抜きにしても、部長の走りがキレッキレだったんだ。
「ほら行くぞ鷹臣! ほら行くぞ鷹臣! ほらほらほらほらほらぁ!!」
「あ、煽らないでくださいっ!!」
「ならついてこい! オレが喋れなくなるぐらい追いつめてみろよ!!」
「こな、くそぉ……っ!!」
ペースを落としただけじゃなく、俺の周りを部長がクルクルと走りながら回り始める。
やばい……! マジで何だこの人!
何で止まらずに喋り続けられるんだ……!?
「へっ! いー顔してんじゃねーかー! その顔その顔! 走る事以外何も考えてねーアホみてーな顔な!!」
「馬鹿に、してぇ……っ!」
「褒めてんだよバーカッ!!」
「馬鹿にしてるじゃないすか!?」
走る、走る、走る。
足を回して、背筋を伸ばして、顔を上げて。
俺の前を先行する部長の背中を追い続けていた。
赤を基調としたユニフォームを着る、走る事に特化したスレンダーな身体。
小夏と同じ、日焼けした肌。
短いポニーテールが走る度に揺れていて、この後ろ姿をずっと追っていた。
「おっ! 腑抜けてるかと思ったけど根性あんじゃんか!!」
「ぜぇ……はぁっ……そりゃあ……そうっす……!」
でもいつまでも背中を追っているだけじゃいられない。
俺は必死にペースを上げて部長の隣を並走した。
終わりが見えないからこそ逆に出来る。
これが後二十キロ走るのだとしたら、絶対に出来ない走りだった。
……がむしゃらとも言うけれど。
「つーか……何で……! サボりながら走ってるんすか……!?」
「あぁー!? だっておめー学校終わったら速攻病院か小夏の所に行くだろーが!」
「……確かに!」
「だから今しかねーだろー!?」
サボってるのに部長が言う事は正論も正論、ド正論だった。
俺は小夏の事で頭がいっぱいで、部活の事とか何も考えていなかったのである。
「ったくよぉ、本当に世話が焼けるよなぁ……」
「っと、とぉっ!?」
突然部長が走るのを止めて立ち止まる。
慌てて足を止めなければその背中に突撃するところだった。
「ほれ、お疲れ」
「あ、あざっす……」
何事もなかったかのように部長が俺の肩をポンと叩く。
乱れた呼吸を整えながら周りを見渡してみると、校門前に戻ってきていて。
「よーし、じゃあ行くかー」
そのまま部長が校門をくぐって歩き出した。
「学校ですけど!? ま、まだどっか行くんすか!?」
俺も慌てて部長の隣に小走りで駆け寄る。
すると部長は額から流れる汗を手で拭いながら、ジト目で俺に笑いかけた。
「ばーか、決まってんだろ?」
そのまま部長は俺の肩に手を回して。
「走った後は、汗流すんだよ!!」
「は、いや……またっ、えぇっ!?」
有無を言わさず、教室ではなく部室棟の方へと引っ張っていくのだった。




