第54話 『鷹臣くん、話聞こうか~?』
「どしたん鷹臣くん、話聞こうか~?」
「俺のセリフだけど!?」
昼休みになった瞬間、教室にいた俺は突然現れた佳穂により手を引かれて体育館裏に連行された。
当然こんな時間じゃ誰もいないこの場所は昼だけど日陰になっていて薄暗い。
そんな場所で佳穂が朗らかな笑みを浮かべながら、怪しい感じで聞いてくるんだ。
温度差が、温度差が凄かった。
「うんうん~。それは鷹臣くんが悪いよ~」
「何も言ってないけど!?」
「でも、顔色悪いよ~?」
「うおわっ!?」
――ピトッ、と。
冷たくてひんやりとした手のひらが、俺のおでこに当てられた。
ゆるふわで人よりも距離感が近い佳穂の顔が急に近づいてきて、至近距離から俺を見上げる。
日陰の下なのに、その瞳は柔らかい……太陽のような瞳だった。
「ぬっふっふ~。やっぱり鷹臣くんは良い反応するね~!」
「だ、誰のせいだと!?」
「元気がいっちば~ん! それで~、小夏ちゃんは大丈夫~?」
「なっ――」
口元を緩めて、俺のおでこから手を離し、佳穂が悪戯に笑う。
……流石にずっと流されっぱなじゃ黙っていられなかった。
そんな俺の言葉を、佳穂が一言で止めてしまう。
その質問は、今の俺にとってもっとも重い質問だったからだ。
「くるみ部長から聞いたよ~? 昨日、あ、一昨日~? おかあさん、大変だったんでしょ~?」
「……まあ、うん。今は病院で……安静にしてるから」
「そっかぁ、良かったね~!」
佳穂の言葉で一部だけ納得する。
俺が部長にメッセージを送り、それを部長が佳穂に伝えたんだろう。
だけど、小夏の事は言ってないのに……。
「小夏ちゃんのクラスメイト達からも今朝連絡があったんだ~。今日も休んじゃってるみたいだから~、鷹臣せんぱいが来てたら大丈夫か聞いてくださいってね~!」
「……あぁ、小夏の」
「みんなの頼れるマネージャーですから~、ぶい~!」
心を読んだかのような的確な返し。
佳穂は胸の前で小さくピースサインを作った。
他の男子が見たらその可愛さで人気が出そうな仕草だが、もちろん俺はそんな気分には慣れなくて……。
「それで飛び出して来てみれば~、鷹臣くんがこの世の地獄みたいな顔をしてたから~、連行しちゃったという訳だよ~!」
「……来て早々に俺の手を引っ張らなかった?」
「休み時間の度に覗いてたからね~!」
「覗いてた!?」
「計画的犯行ってやつだよ~!」
ゆるふわな笑顔で凄い事を言ってくる。
もしかして昼休みより前に連れ去られていた危険性もあったという事だろうか?
「それでね~、小夏ちゃんが休んじゃって鷹臣くんが暗い顔してたから~、ビビ~ンって来ちゃったんだ~! 気分は名探偵~! 小夏ちゃんは大丈夫なの~?」
「……昨日の夜から体調を崩して、父さんが今日病院に連れて行ってくれてる。多分だけど、義母さんが倒れてから、寝てなかったから、色々あって……」
「そっかそっかぁ~」
のんびりした口調なのに、逃げ場が無い。
しどろもどろになりながら説明をする度に、また苦しくなった。
俺は小夏の隣に、いてやれなかったから……。
「鷹臣くんは、大丈夫なの?」
「……え?」
そんな俺の顔を、佳穂がまた覗き込んだ。
そこにはさっきまでの間延びした表情は無く、真剣そのもので。
「お、俺より小夏が」
「今~、私は~、鷹臣くんの心配をしてるんだよ~?」
「……大丈」
「うそぶっぶ~!!」
「は、ぁ!?」
「大丈夫な人はそんな顔しませんよ~だ!」
かと思えば、佳穂は両手を交差してバツマークを作り、頬をぷくっと膨らませた。
これは、怒っているんだろうか……?
「い、いや俺は……」
「だって鷹臣くん、あの時と同じ顔してるもん」
そして真顔で、また俺の顔をじっと見つめる。
「あ、あの時って……」
その真剣な表情とその言葉に、俺の胸がぎゅっと苦しくなって。
「去年の予選会ゴール前で~、小夏ちゃんを助けた時からしてたのと同じ顔だよ~」
そんな俺に、佳穂はまた柔らかく笑いかけたのだった。




