第52話 「おにいちゃん、いってらっしゃい……」
「おにいちゃん……ごめんね……」
「大丈夫。だから今日も休もう、な? まだ熱も下がって無いんだし……」
「うん……」
昨日の夜、小夏が体調を崩した。
昔話の時に話していたけれど、小夏も義母さんと似て身体が強く無いらしい。
最近はずっと元気で俺の方が振り回されまくっていたけれど、義母さんが倒れたりそこから病院で寝ずに心配しながら待っていたり、倒れたのは自分のせいだと言ったりとで、身も心も疲れてしまったんだと思う。
小夏は、優しいから。
そんな小夏に、俺は隣にいる事しか出来なかったんだ。
「安心しろって。今なら父さんもいるし、俺も一緒に病院に――」
「だめ……」
「え?」
でもそれしか出来なくても、出来る限りの事をしよう。
そう思ったのに、小夏はベッドの上で小さく首を横に振った。
「おにいちゃんは、学校……行って?」
「で、でも……」
「私は、大丈夫だから……。お義父さんもいてくれるか、ゴホッゴホッ!」
「小夏っ!?」
慌てて俺は小夏の背中を擦る。
座っているだけでも辛いのだろう。
咳で乱れた呼吸が落ち着いてから、俺はそっと小夏をベッドに寝かしつけた。
「……ごめんなさい」
「良いよ。やっぱり、俺もさ」
「ううん」
ベッドの中から、小夏が申し訳なさそうに俺を見上げる。
その姿を見て居ても立っても居られなくなった俺に、小夏はまた首を横に振った。
「部長も佳穂ちゃん先輩も。みんな心配してるから。おにいちゃんは、学校行こ?」
「だ、だけど!」
「ちょっと休んで、病院行って、お薬飲むから……そうしたら、お母さん、みたい、に……」
「小夏……」
俺を心配させまいと笑顔を向けてくれる。
だけど義母さんの事を話し出すと途端に目に涙が溜まり出してしまった。
昨日、いや一昨日の夜からずっと、小夏はそればかり考えてしまっている。
どうにかしてやりたい。
小夏のせいじゃないよって、ちゃんと言ってあげたい。
けれど今の心身ともに弱ってしまった小夏はまず第一に俺を心配させないようにと振舞ってくれて、それがまた小夏の気を遣わせてしまっていた。
「……わかった」
「……うん」
だから、わかってしまった。
今俺が一緒にいると、余計に小夏を苦しめてしまうって……。
「学校、行ってくるよ」
「……うん」
小夏は、優しいから。
「……ごめんな」
「……ううん」
自分が一番辛いのに。
「いってらっしゃい、おにいちゃん……」
こんな情けなくて何も出来ない俺に、ずっと笑顔を向けてくれていたんだ。




