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俺に懐いていた日焼けボーイッシュな後輩が、健気でしおらしい義理の妹になってしまった  作者: ゆめいげつ
最終章 歩み出す先輩後輩のこれから

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第51話 「おにい、ちゃん……?」

 ――ピピピピッ、ピピピピピピピピピッ!!


「ん、んん……?」


 少しジンジンする頭を働かせて、頭上で鳴るスマホに手を伸ばす。

 完全に徹夜明けの寝不足状態だった。

 本当に気絶するレベルでずっと寝てたのに頭も身体もとても重くて、息を吐く度に胸がむかむかするような感じがする。


 寝る直前は明るかった外もすっかり暗くなっていて、昼前から夜までずっと寝ていた事が分かった。


「……うわっ」


 部屋の電気をつけて、スマホを見る。

 そこにはおびただしい数のメッセージと着信履歴が残っていた。

 ほとんどが部長で、その次に佳穂、最後にクラスメイトや部員達と続いている。


 当然だけど昨晩からの出来事は俺達家族しか知らない。

 まあそれがあるにせよ無いにせよ、何の連絡も無く一緒に住んでいる俺と小夏が同時に休めば、そりゃこうなるか……。


「……とりあえず、部長にだけ軽く返信しとくか」


 端的に昨日あった事を送信する。

 義母さんが過労で倒れて救急車を呼んだ事と、徹夜で看病してたから今日は学校を休ませてもらった事、明日は行けるから大丈夫と言う事と、何の連絡もしなくてすみませんという事。


 一度に送り過ぎな気もするけれど、部長ならこれで全部察してくれると思う。


「……小夏のスマホにも同じぐらい来てるんだろうな」


 メッセージの履歴が放課後まで続いている事から、小夏もずっと寝ている筈だ。

 それに小夏の方が俺よりメッセージでやり取りをする友達が多いので、スマホを見たら大変な事になっている気がする。


「……とりあえず、顔洗うか」


 あれだけ色々な事があったのに、寝て起きたらやっぱり腹が減る。

 人の身体って不思議だなと思いながら部屋を出ると、やっぱり小夏の部屋の扉は閉じていた。

 まあ不在でも開けっ放しにはしないよなと、だんだん覚めてきた頭を動かしながら階段を降りて、洗面所で顔を洗う。


 冷えた水がとても心地良い。

 だけどそれとは真逆で鏡に映る俺の顔は少し疲れてるように見えた。


「…………っし!」


 ――パンパン!

 腑抜けた頬を俺は両手で叩く。

 濡れた顔を拭く前にやるんじゃなかったと少し後悔した。


 頬は痛いし、水も跳ねてと良い事無いが、気持ちは引き締まったので良しとする。


「まずは……夕飯、だよな」


 何はともあれ、空腹だ。

 小夏だって、昨日の夜から何も食べていないんだ。

 きっと起きたら俺と同じようにお腹を空かせている事だろう。


 そう思って廊下からリビングへ向かうと、そこには既に先客がいたんだ。


「おお、鷹臣。起きたか」

「……父さん。もう大丈夫なの?」


 父さんだ。

 父さんがリビングの向こうにあるキッチンに立っていて、そこからはグツグツと音がする。

 カレーの匂いだ。

 父さんが良く作ってくれた、大好きなカレーの匂い。


「ははは、大人をあまり舐めるなよ? 後天的なショートスリーパーとして鍛えられた俺は少しの睡眠で体力全回復だ」

「それ……尊敬して良いのか?」

「うぐ……まあ、相対的に体力の最大値が下がったとも言うがな……」


 良かった、いつもの父さんだ。

 ゲームが好きな父さんは、ゲームに例えてそんな軽口を言う、そんな父さん。


「美春から、母さんからも連絡が来たよ。良く休めてるから、みんなもしっかり休んでねって。ははは、美春には敵わないな……」


 苦笑いを浮かべながら父さんが料理を続ける。

 そこには寝る前のような、気まずい雰囲気はもう無かったんだ。


「鷹臣。もう少しで出来るから小夏ちゃんを呼んで来てくれるか?」

「うん。だけど、父さん?」

「ん?」


 俺は父さんに頷いて、入って来たリビングの扉にまた手をかける。

 和やかな雰囲気だけど、言わなきゃいけない事があるんだ。


「小夏は、甘口のカレーしか食べられないよ」

「なっ!? ま、マジか……どうする、何を入れたらこの状態から甘くなる……!」

「……じゃあ、呼んでくるよ」


 焦る父さんを横目に、俺はリビングを後にする。

 小夏と一緒に暮らしてきたから知ってる事で、父さんに勝てた気がしたんだ。


  ◆


 ――コンコン。


「小夏、起きてるか?」


 二階に戻り、小夏の部屋の扉をノックする。

 だけどやっぱり返事は無いからまだ寝ているんだろう。


「父さんがカレーを作ってくれてるんだ。ちょっと辛いかもしれないけど、俺のより百倍美味いぞ」


 とは言え、一応もう一回だけ声をかける。

 もし着替え中とかだったりしたら、それこそ大変な事になってしまうからだ。


「……入るぞ?」


 細心の注意を払う。

 泣きつかれて眠ってしまったのに、起きてからもまた気まずくなるなんて洒落にならない。

 辛さや悲しさを忘れてくれるのは良い事だけど、それが恥ずかしさなのは流石にちょっとアレだった。


「……電気、つけるぞー?」


 なので小夏が起きていない事を再確認し、スイッチを押して電気をつける。

 一瞬で部屋が明るくなった。

 可愛らしい女の子の部屋のその奥のベッドで、小夏は静かに寝ていたんだ。


「小夏、小夏」

「ん、ぅ……」


 ベッドの横にかがんで、そっと小夏の肩を揺する。

 まだ寝る前の涙の痕が少しだけあって、心なしか顔も少し赤かった。


「小夏、起きろー」

「おにい、ちゃん……?」


 完全に寝起きな小夏が俺を見上げる。

 クリっとした瞳が眠気でとろんとしていて、こんな顔を見られるのも先輩で義兄で恋人の特権だなと思いながら、俺は優しく笑いかけた。


「はは、そろそろ夕飯――」

「……っ! ゲホ、ゲホっ!?」

「――こ、小夏っ!?」


 だけどその瞬間。

 小夏が激しく咳き込んでしまったんだ。

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