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俺に懐いていた日焼けボーイッシュな後輩が、健気でしおらしい義理の妹になってしまった  作者: ゆめいげつ
最終章 歩み出す先輩後輩のこれから

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第50話 『鷹臣、すまんな……』

「すぅ……すぅ……」


 寝室で静かに寝息を立てる、小夏の頭を俺はそっと撫でていた。

 目の下にはまだ涙の痕があって、ついさっきまでの涙が頭の中に蘇る。


「……小夏のせいじゃないよ」


 そう、誰のせいでもない。

 両親は俺達の為に、俺達は両親の為にそれぞれ頑張っていた。

 本当に誰のせいでもない。

 だけど小夏は優しいから、自分を責めたのだろう。


 そんな小夏の頭を最後にもう一度だけ撫でて、俺は部屋を後にする。

 一階に戻って、割れたコップの片づけをする為だった。


  ◆


「…………ん?」


 リビングのソファーで、俺は一息ついていた。

 いや、気絶していたと言った方が良いかもしれない。

 床に散らばったコップをほうきとちりとりで回収して、近所のスーパーの広告の中にくるんで纏めた。


 やる事を終えた俺がソファーに座ってからの記憶があまり無い。

 それこそ目が覚めたのは、玄関から物音がしたからだった。


「おっ……鷹臣、か。すまん、起こしたか?」

「……父さん? っ! か、義母さんは!?」


 リビングに入ってきたのは、父さんだった。

 壁掛けのアナログ時計はもう十時を回っていて、本当に気絶していたようである。


 父さんは大きな溜息を吐きながらも、俺を安心させてくれるように小さな笑みを溢した。


「病院で寝てるよ。俺も看護師に言われてな、後は私達の仕事だから旦那さんも家に帰って休んでください! ……ってさ」

「…………そっか」

「鷹臣は、そこで寝てたのか?」

「いや、ちょっと休んでただけ。ほら、義母さんが頭を切っちゃったコップが床に割れて散らばっちゃってて、それを片付けてたからさ」

「…………すまんな」


 もう一度、父さんは大きな溜息を吐く。

 だけどその溜息はさっきとは比べ物にならないぐらい重たく感じた。

 そのまま父さんは俺の隣に座り込み、肩を落として膝の上で手を合わせる。

 

 久しぶりの父さんとの会話だ。

 だけど今まで住んでた家じゃなくて小夏の家、しかも義母さんが倒れた後に。


「……父さん」

「どうした?」

「……いや、何でもない」


 色々と話したい事があった筈なのに。

 何を話せばいいのか、分からなくなってしまった。


 あれ? 俺、父さんと今まで何を話してたっけ?


「…………鷹臣」


 そんな俺に、今度は父さんが話しかけてくれた。

 視線は向けず、ソファーに座りながら、お互い虚ろに前だけを向きながら。


「……その、今まで……すまなかった」

「……父さん?」

「…………美春が倒れたって聞いて、ようやく気付いたんだ。いや、気づくには遅すぎるか……。家も、息子も、プロポーズをした女性さえも、俺は全部任せて、仕事を優先してしまった……」

「……父さん」


 こんな父さんを、俺は見た事が無かった。

 ずっと男手一つで俺を育ててくれて、尊敬していた父さんが、さっきの小夏みたいにとても小さく感じる。


 ――そんな事ないよ。

 たった一言、それを言うだけなのに、俺の口が開かない。


 俺も、泣いてしまった小夏に何もしてあげられなかったから。

 父さんの気持ちも痛いぐらいによく分かるんだ。


「風呂……入りなよ。父さんも、仕事からそのまま飛んで来て、疲れてると思うからさ。暑い風呂に入って、ゆっくりベッドで一眠りして……また夕飯の時に、ゆっくり話そうよ」

「……鷹臣。あぁ、すまんな……」


 少し驚いたように、父さんは俺を見て、小さく微笑んだ。

 その目の下には母さんと同じようにクマが出来ていて、不規則な生活を送っているのは間違いない。


「……鷹臣も、ゆっくり休むんだぞ」

「……父さんもね」


 そう言って、父さんはゆっくりと立ち上がり、静かにリビングを出て行った。


「…………」


 何かをちゃんと、話さなければならない。

 だけどその前に、俺達は全員ゆっくりと、休まなければいけなかったんだ。

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