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俺に懐いていた日焼けボーイッシュな後輩が、健気でしおらしい義理の妹になってしまった  作者: ゆめいげつ
第三章 たどたどしい義兄の決断

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第46話 「せんぱい、見てほしいっス……」

「まあまさか。あの後正式に入部した小夏が長距離走じゃなくて走り高跳びをメインにするとは思わなかったけどさ……あの流れだったら小夏も長距離走だろ、普通」

「うぐっ……そ、それはせんぱい達が速すぎるからっス! いつも後ろでひーひー言ってる他の先輩達も、他の子達からすると全員化け物っスからね!?」


 ベッドの中で小夏が俺を睨んでくる。

 思い出ではなく、今の、現実の小夏だ。


「……でも。あの後も、色々あったよなぁ」

「……せんぱいはすーぐそうやって話を逸らすっス」

「まだ話の途中だからな」


 今まで一緒に話していたのは俺と小夏の出会い編だ。

 ここから正式に陸上部編と高校生活編が始まって、夏休み前の両親再婚編と夏休み中の同棲開始編が待っている。


 俺達の出会いだけで言えば一年。

 再開してまだ半年なのに、まだまだ語れるエピソードが大量にあるのだ。


「小夏のおかげで、俺はまだ陸上を続けられてるんだ。また、走る事が楽しいって、思い出させてくれて……ありがとな」

「…………だから、ズルいっス」


 同じ枕に眠る小夏の頭を優しく撫でた。

 ズルいとは言いながらも小夏はそんな俺に身を預け、照れくさそうにはにかむ。


「そこまでの事、想ってもらえるなんて、思わないじゃないスか……。私は、ただ、せんぱいにお礼が言いたかっただけ、だもん……」

「……そうやって頑張って明るい後輩でいてくれようとしてる所とか、本気で可愛いって思えるんだ」

「うううううぅぅぅぅ……!!」


 たまらなくなって、そのまま小夏を抱き寄せた。

 重なる体温、全身に触れる小夏の柔らかさ、お風呂上がりの甘い匂い、恥ずかしがりながらも甘えるその声の全てで幸せを感じるんだ。


「小夏が後輩で良かった。振り回されっぱなしだったけど、そのおかげで目の前の事に集中できた。小夏が見てるから、俺も頑張ろうってなれるんだ」

「……そのせいで、私が頑張っても、せんぱいはすーぐに先を行くっス」

「俺は小夏のせんぱいで、おにいちゃんだからな」

「…………ぁぅぅ」


 抱き寄せた身体を、強く強く抱きしめる。

 まだまだ思ってても言えなかった事が沢山あるんだ。


「小夏がウチの高校を選ばなくても、父さんと義母さんが再婚して、俺達は家族になってたと思う。でも小夏が後輩だったから、俺は足を止めずに走り続けられるんだ。小夏、ありがとな……」

「…………だから、ズルい、っス、よぉ」


 胸の中で、小夏が震える。

 その細くか弱い女の子の身体をもっと抱きしめたくなるが、俺はグッと我慢した。

 

「だ、だって……せんぱいが、走るの、嫌になったの! わ、私のせいじゃ……ないすか!」


 小夏は、俺以上に強い子だと知ってるから。


「……違う。俺はその前からずっと悩んでた。それを小夏が、助けてくれたんだよ」

「で、でも! レースを駄目にして、もっと悩ませちゃったのは、私のせいっス!」


 そして責任感も、俺以上に強い事を知っているんだ。


「俺は絶対にそう思わない」

「…………え?」


 だからこそ、俺は言うんだ。


「だって昔からのライバルが事故で走れなくなった事をずっと悩み続けた俺が、目の前で倒れた人を助けない訳が無いだろ?」

「それ、は……」


 一番それっぽい、後付けの理由を。

 俺は小夏と再会してから、ずっと考えていた。


 どうして俺はあの時、身体が勝手に動いたのかって。

 正義感とか、人として当然とか、そんな理由じゃ納得出来ない。


 どこまでも俺は理由を探してしまう性格みたいだ。

 でもこれは前向きな理由で、こうかなと思った時は、とてもしっくりしたんだ。


「俺に、大切な人を。助けさせてくれて……ありがとう」

「…………せん、ぱぁい」


 だから、これにする。

 いいや、これが一番良い。

 好きの理由は自分の好きにして好きにすれば良いって、小夏が教えてくれたから。


「……ズルい、っス」

「さっきからズルいしか言わないな」

「だってズルいんだもん!!」


 俺の胸の中で小夏がキッと睨む。

 素の大人しい性格と、普段の元気な姿が混ざった、俺にしか見せない顔だった。


「わ、私からしたら、せんぱいは! 見ず知らずの私を、自分の大切なレースを止めてまで助けてくれたすごく優しい人なのに! なのにそれも自分の為だったって、どれだけお人よしなんスか馬鹿なんスか!?」

「馬鹿ってなぁ……」


 それは小夏も同じだろう。

 俺からしたら、見ず知らずだった俺の為に入学する高校を変えてまで会いに来てくれた人なんだから。


「でも、そんなお馬鹿でちょっと情けないところもあるせんぱいだから、もっと好きになっちゃうっス……」

「……急にドキッとさせるのやめてくれないか?」

「せんぱいに言われたくないっス! 今日の事とか! 今日の事とかぁ!!」

「…………すまん」


 だから俺達はきっと似た者同士なんだ。

 変に律儀で、責任感が強くて、好きな事に真っ直ぐで。


 まあでも、ドキッとさせてくる率だったら小夏の方が多いと俺は思うけどさ!


「……せんぱいのカッコよさが、他の子に知られるの……嫌、だもん」

「…………っ」


 ほら、こういうところとか。

 ほら! こういうところとか!


 俺も思ってたもん!

 俺だって思ったからそうしたのに、小夏はさぁ!


「……だから。私だけに、見せてほしいっス」

「……俺もだよ」


 小夏が俺の顔に手を伸ばす。

 クリっとした瞳が潤んで熱を帯び、ジッと俺を見つめる。

 同じ掛け布団の中では足が絡まり合って、お互いに離そうとしなかった。


「私だけに、私だけを、見て……」

「あぁ、小夏……」


 そうしてまた。

 昨日のように、お互いの距離がゼロに。


 ――ガシャアアアアアアアアアンッッ!!


「っ!?」

「っ!?」


 なる、筈だった。

 部屋の外、いや、一階から……何かが盛大に割れる音が聞こえるまでは。

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