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俺に懐いていた日焼けボーイッシュな後輩が、健気でしおらしい義理の妹になってしまった  作者: ゆめいげつ
第三章 たどたどしい義兄の決断

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第45話 「小夏と鷹臣5/5」

「え、えっと……誰、だ……?」

「あっ、あっ、あっ! 申し遅れたっス!」


 部活を、陸上を辞めようと思っていた。

 そんな俺の前に突然現れたのは、部長ではなく小夏だった。

 だけど当時の俺は小夏の事を知らない。


 それにあの大会予選の日から見た目も喋り方もまるっきり変わっていて、気づける要素も余裕も、俺には無かったんだ。


「さ、楽々浦! 楽々浦……小夏っス! 鷹臣せんぱい! あの時は、本当にありがとうございました!!」

「ま、待ってくれ! あ、あの時って、いつの事だ!? 俺はそんな、お礼を言われる事なんて」

「何を言ってるっスか! 鷹臣せんぱいは私の命の恩人っスよ!!」

「お、俺がぁ!?」


 勢いが凄くて、ただ、圧倒されていた。

 だって身に覚えが無さ過ぎるから。

 しかも何て言うか、礼儀正しいのにグイグイ来る。


 この時の俺は無意識に周囲と距離を置こうとしていたから、佳穂も部長も部員達もどうにか話しかけようという意識が少なからずあった。

 だけど当然、小夏はそんなのを知らないから気持ちだけで俺にぶつかってきてくれたんだ。


「はいっス! あの日、あの時、鷹臣せんぱいが倒れた私を助けてくれなかったら、助けてくれた事が……本当に嬉しかったっス!!」

「いや、俺は、そんな事……え? たお、れた……?」

「はい! 去年の駅伝予選会で、鷹臣せんぱいは私を助けてくれました! だから、私……ずっとお礼を言いたかったんです! 本当に……本当に、ありがとうございました!!」


 小夏がもう一度、姿勢正しく深々と頭を下げる。

 でも俺にはそれが信じられなくて。


「嘘、だろ……?」


 それしか言えなかったんだ。

 だってこの一瞬で、色々な事が頭の中に浮かんで、グチャグチャになったからだ。


「嘘じゃないっス! 本当っス! ありがとうございましたっス!」

「だ、だって君! ふ、雰囲気違くないか!? 確か俺が助けた子は、長い髪で」

「切ったっス! 鷹臣せんぱい、覚えててくれてたっスね!」

「き、切った!?」


 だけどこのグチャグチャは、悪いグチャグチャじゃなかった。


「そ、それに! なんて言うか、色白で、大人しそうな子だった気が……」

「お友達と一緒に外で運動したり、日焼けサロンに行ったっス!」

「日焼けサロン!?」

「えへへ、ずっとインドアだったんで、急に焼けるのは大変だったっスよ!」

「問題はそこじゃなくないか!?」


 全部が唐突過ぎて、悩む暇さえ無かったから。


「ほ、本当に君が、俺が助けた子だったとして! お、俺にお礼を言いにって、だって、俺は助けただけで、話なんてほとんどしてなくて……」

「調べたっス!」

「調べたぁ!?」

「はい! 鷹臣せんぱい、あの時も周りで応援してるお客さんが、凄い高校一年生が現れたって言ってたのですぐ分かりました!」

「……それ、は」


 それだけ小夏は破天荒で。


「い、いやだとしても! 君のその制服のリボンの色……一年だろ? まさかお礼を言う為に入学してきたとか……言わない、よな?」

「その通りっス! ずっと、ず~っとお礼が言いたかったっスよ!」

「いやいやいやいや! お礼を言いたいだけなら、普通に会いに来ればそれで良かったんじゃないか!?」

「…………それもそうっスね!」

「かっる!? そうっすねで済む話じゃなくないか!?」

「だってもう、入学しちゃいましたし!」


 とんでもなく、律儀だったんだ。


「いや、え、えぇ……入学って……俺に、ただ、お礼を言うだけで……」

「だけじゃないっス! 私にとってはすっごい大事な事っスよ!!」


 単純すぎる理由だ。


「鷹臣せんぱいのおかげで、私……変われたっス!」

「変われたって、そりゃ確かに――」

「楽しかったっス!!」

「――え?」


 その単純さが、眩しかった。


「鷹臣せんぱいに会えるまでの今日、これまでが! 長い髪を切るとそれだけで頭が軽くなって、最初は恥ずかしかったっスけどみんな可愛いって言ってくれて! 流石に、日焼けサロンは驚かれちゃったっスけど……持つべきものは友達っスね!!」


 ずっと俺は、理由を探していたから。


「毎日が新鮮で、挑戦でした! インドアな私がお友達と一緒に外に出て、服とか、運動とか、知らない事をいーっぱい知りました! 走るのはちょーっとキツかったっスけど、でも友達と一緒だと楽しくて!」


 自分が走る為の理由を。

 そして、辞めるまでの理由を。


「まあ、鷹臣せんぱいの言う通り直接会いに行けばそれまでだったっスけど、それまでで終わらなかったっス! だってこうして、鷹臣せんぱいに会えましたから!!」


 真っ直ぐすぎて、後先考えなくて、ただがむしゃらに、前に突き進む。


「……鷹臣せんぱい」


 誰かの為だけど、自分の為でもある。


「本当に! ありがとうございました!!」


 自分がやりたいから、やるという単純な気持ちを。


「鷹臣せんぱいのおかげで」


 見えなくなっていた子供の時の気持ちを。



「今すっごい楽しくて、嬉しいっス!!」

「――――」


 小夏は俺に、思い出させてくれた。



 ――昔から、走るのが好きだった。


「あー……やったっスー! 鷹臣せんぱいのおかげで鷹臣せんぱいに助けてもらえて鷹臣せんぱいに再会できて鷹臣せんぱいにお礼を言え、たぁ~……!!」


 ――いつから好きだったかは覚えていない。


「……だから、これからよろしくお願いしますっス!」


 ――でも、それで、それだけで良かったんだ。


「鷹臣せんぱいに助けてもらった恩を返す為に!」


 ――好きだから、楽しくて。楽しいから、もっと好きになれる。


「私、これから精一杯頑張るっスよー!!」


 ――その大切な気持ちを、小夏は笑顔と一緒に届けに来てくれたんだ。


「という訳で! まず私は何をしたら良いっスか!? あっ! 部活で疲れてると思うしマッサージするっスか!? 任せてくださいっス! 私も最初は筋肉痛が凄くてお友達にアレコレ教えてもらったっスよ~! 身体のケア力なら、鷹臣せんぱいにも負けないっスー!!」

「……は? い、いやちょっと……ま、待ってくれ!」


 ――あの日から、いやずっと前から、見えなくなっていた。


「待たないっスー! むしろ私が待ってたっス! 鷹臣せんぱい覚悟っスよー!!」

「お、おわぁぁぁぁっ!?」


 ――好きという、この気持ちを。

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