第33話 「せんぱいっ!?」
「お、おにいちゃん……って、小夏ちゃん、それ……」
「ち、ちが……佳穂ちゃん先輩、こ、これは……その……」
小夏がうっかり言ってしまった『おにいちゃん』という爆弾発言。
周囲がざわつき始める中で、真っ先に食いついてきたのはやっぱり、お喋り好きなマネージャーの佳穂だった。
「先輩後輩で恋人兄妹シチュエーションを楽しんでるってことぉ~!?」
「そんな訳あるかぁっ!!」
それに小夏ではなく、俺が反論する。
ていうか何だ恋人兄妹シチュエーションって、初めて聞いたぞそんな言葉……。
「え、でも小夏ちゃん、鷹臣くんのことを『せんぱい』じゃなくて『おにいちゃん』って言ったよぉ~?」
「……それは」
その言葉に悪意はない。
恋愛脳な佳穂だからこそのシンプルな疑問だった。
どうする、どうする……俺。
この窮地をどう《《誤魔化して》》切り抜ける!?
「楠木先輩、小夏ちゃんにおにいちゃんって呼ばせてるんだ……!」
「先輩後輩だけじゃなく禁断の兄妹シチュエーション……推せる!」
「し、趣味が良いですね楠木先輩……こ、今度一緒に語り合いませんかっ!?」
何か変な方向に誤解されてる気がする!
この誤解をどう誤魔化せばいいんだ俺は……!
「ち、ちがぁ……違う、っスぅ……」
「……小夏」
…………いや、違う。
こんなに小夏が困ってるじゃないか。
今この場はなんとか誤魔化せたとして、この後はどうする。
せっかく小夏が勇気を出したのに、俺はこのまま何もしないのか?
「オイオイお前ら、背中を押して一緒に鷹臣と突撃したオレが言うのもアレだけど囲んでやる噂話じゃ――」
「部長、大丈夫です」
「――鷹臣?」
ざわつき出した女子部員達を止めようと、俺の後ろから部長が顔を出す。
だけど俺はそんな部長の優しさに感謝しながらも、手を前にしてそれを制した。
これは俺の問題、いや、俺と小夏の、義兄妹の問題だから――。
「みんな、黙っててごめん!!」
「た、鷹臣くん~!?」
――俺は、みんなの前で頭を下げた。
突然の俺の行動に目の前にいた佳穂が、そして部員達がまたざわめいていく。
「……みんなに、言ってなかった事があるんだ」
でも俺は言葉を止めない。
小夏の為に、いや、俺達の為に言葉を続ける。
「小夏が俺を、『おにいちゃん』って呼んだのにはちゃんと理由があるんだ」
「……鷹臣くんの趣味じゃ」
「好きになりつつあるけど、そうじゃない」
「せ、せんぱいぃっ!?」
真顔で佳穂が言う。
本当に恋愛脳だけど、その突拍子の無さが空気を和らげてくれてありがたかった。
「俺と小夏は、夏休み前から……両親が再婚して義理の家族になってたんだ!!」
言った、言ってしまった。
言ったからにはもう後には引けない。
いや、引く気はもう無かった。
「た、鷹臣くんと小夏ちゃんが~!?」
「……あぁ。俺達もまだ家族になって日が浅いから、みんなを混乱させたくなくて黙ってた。本当にごめん! 騙すつもりは無かったんだ!!」
「……おにい、ちゃん」
俺はもう一度、頭を下げる。
誠心誠意説明して、小夏を守る。
今度は俺が、勇気を出す番だ。
「……鷹臣くん、一つだけ、聞いていいかな?」
「……もちろん。何でも答えるよ」
深く頭を下げた俺の頭上から佳穂が声をかける。
「……つまり、つまりだよ?」
「……あぁ、佳穂が思っている通りだ」
その声はいつものように間延びしておらず、真剣そのもので――。
「元々好き合ってた二人が、親の再婚で運命的にくっついちゃったってこと~!?」
「…………は?」
――両手を頬で押さえながら、鼻息を荒くして語り出したんだ。
「うわ、うわぁ~! すごい、すごいよぉ~! 鷹臣くん、小夏ちゃ~ん! そんな理想の王子様との同棲生活、ドラマや少女漫画じゃなくて現実にあるんだね~!!」
「か、佳穂……?」
佳穂の暴走が止まらない。
「え、え、え? 秘密の関係……? 秘密の関係だぁ~! みんなにバレちゃいけない二人だけの秘密の関係! えぇ~! ごめんねぇ~小夏ちゃ~ん!? そうと知ってれば、鷹臣くんとお試しであ~んはしなかったのにぃ~!! これじゃあ本当に泥棒猫だよぉ~!?」
「か、佳穂ちゃん先輩~!?」
テンションが振り切れた佳穂が、オイオイと泣きながら小夏を抱きしめる。
何だこの空気、何だこの展開……!?
「小夏と楠木先輩が一つ屋根の下で、ど……同棲っ!?」
「おはようからおやすみまでずっと一緒のラブラブ生活!?」
「兄妹だからこそ近くて遠い恋模様……うっ、は、鼻血が……!?」
周りの女子からも黄色い歓声が広がり出す。
その勢いは、ついこの前した俺達の恋人報告の比じゃなかった。
「いや、あの、みんな……?」
「頑張ってください楠木先輩! 私達、一生二人を推しますんで!」
「だけど小夏を泣かせたら許しませんからね! おにいちゃん彼氏の責任ですよ!」
「ありがとうございます……ありがとうございますぅ……あのぉ、ティッシュ、ありますか……?」
「うおっ!? あ、ありがとな……それとヤバかったら保健室行こうな!?」
感極まった小夏の友達を筆頭に女子達が押し寄せる。
「ちくしょー! 鷹臣! さっきから全部聞いてたけど全部羨ましいぞお前ー!!」
「俺達も混ぜろコラー! 後輩義妹との幸せ同棲生活なんて羨ましけしからん!!」
「やっぱり足が速いとこの世の全てを取りに行けるのか!? 負けないからな!?」
「お前達までもか!?」
そこに混ざるように、女子の圧に押されていた男子分達までも混ざり出す。
それはマラソンで一位のゴールテープを切った後に匹敵するぐらいの賑やかさで。
「まあ、結果オーライ……だな!」
人込みの外からは、部長の元気な声が聞こえた気がした。
「お、オーライなんですかこれ!?」
「か、佳穂ちゃん先輩、苦しい……っスよぉ……!?」
だけどその間も俺は女子を筆頭に部員達から質問攻めを受け続け、小夏は佳穂にずっと抱きしめられていたんだ。




