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俺に懐いていた日焼けボーイッシュな後輩が、健気でしおらしい義理の妹になってしまった  作者: ゆめいげつ
第三章 たどたどしい義兄の決断

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第32話 「おにいちゃん……何でもないよ!!」

 ひいき目に見ても小夏は可愛い、可愛すぎる。

 学校では元気はつらつな日焼けボーイッシュ美少女の小夏が、ある日急にメガネをかけてきて大人しくなったらどうなるだろうか?


 そんなの答え合わせをするまでも無かった。


「せ、せんぱい……今日も……お昼……一緒に行く、っス……」

「誰だあの美少女!?」

「いやこの前も来てた……でも雰囲気が違いすぎるな!?」

「まさか、双子……!? そんなの俺の学園美少女図鑑のデータに無いぞ!?」

「何にしても最近の鷹臣お前何なんだマジでぇ!?」


 昼休み。

 小夏が俺の教室にやってきて男子を中心に大パニック。

 それもその筈。

 前回は教室に勢いよく入ってきた小夏が、今日は恥ずかしいのか教室の入り口からチョコンと顔を出してこちらの様子を伺っている。


 そんな仕草をされて、グッと来ない男はいないのだ。


  ◆


「せ、せんぱい……あ~ん!」

「……あ~ん」


 学食は良い。

 一周回って、悟りを開いた気分になれる。

 俺の対面に座り、いつものカレー定食をスプーンですくってもう片方の手を添えながら俺の口に運んでくれる可愛い小夏が最高にいじらしくて可愛いのだ。


「あ、あれが陸上部で全てを手に入れた男……!?」

「ま、また違う女の子を侍らせてる……!?」

「いや、あの子はこの前と同じ子だ間違いない……!?」

「や、やっぱり噂通り好きな子を自分色に染める人だったんだ……!?」


 注目されすぎて逆に慣れた。

 いや、慣れなければいけなかったと言っても良い。


「美味しいよ、小夏。ありがとな……」

「う、うん……えへへ……っス」


 俺が平常心でいなければ、小夏がもっと恥ずかしがってしまうからだ。

 だから俺は心を無にして悟りを開き、目の前にいる小夏からカレーを食べさせてもらう事に集中する。


 もちろん緊張で味はほとんどしなかった。

 強いて言うなら、小夏から食べさせてもらえる幸せの味である。


  ◆


「小夏ちゃんイメチェン~? か、可愛い~!」

「か、佳穂ちゃん……先輩、く、苦しい……っスぅ」


 もちろん部活でも注目の的だった。

 まずはマネージャーの佳穂が可愛い小動物を見つけたようにハグをする。

 とんでもない瞬発力だった。

 今だけはマネージャーではなく、選手としてもやっていけるレベルだ。


「そうなんですよ佳穂先輩! 今日の小夏、一日中可愛いんですよ!」

「一挙手一投足の仕草が全部庇護欲を掻き立てられるんですよね!」

「わ、私友達なのに変な扉が開きそうなんですどうしたら良いですかね!?」


 俺達の心配はともかく、小夏の評判は上々というか最上級だった。

 元々高かったが、クラスメイトや同級生女子の人気が凄く高いのである。


 こういうのって何か言われたりするんじゃないかと心配だったが、それは杞憂で。


「それってやっぱり鷹臣くんの趣味なのぉ~? 良い趣味してるねぇ~!」

「佳穂先輩もそう思います!? でも小夏ったら全然教えてくれないんですよー!」

「やっぱり恋は女の子を変えるんですよね! 変えられたとも言いますけど!」

「く、楠木先輩は日焼け肌にメガネの大人しい女の子が好み……私と一緒だ……!」

「ち、違う……っスぅ……」


 主に、俺のせいになってた。

 それが部活動に励む陸上女子達の恋愛琴線に触れたらしく、佳穂を筆頭に大盛り上がりである。


 喜んで良いのか、複雑な気持ちだ。

 素の小夏の筈なのに、気づけば俺の趣味として受けられていたんだ。


「おーおー、鷹臣ー! 今日はいつにも増して小夏の人気がすげぇーなー!」

「……部長は、相変わらずですね」


 俺の背後からぬるっと現れた肩を組んでくるユニフォーム姿の部長は、小夏と違って今日も変わらずボーイッシュなポニーテール姿だった。

 だけどシレっと肩を組むのは、小夏が見たら嫉妬するからやめてほしい。


 それと一緒に思い出すのは、三人で一緒にシャワーを浴びた事だった。


「おう! いつも通りがオレの良さだからな! っつーかどーしたーたかおみー? 小夏が人気なのに嬉しくねぇーのかー?」

「いえ、嬉しいです、けど……」

「けどぉ?」


 小夏に友達が多いのは先輩としても義兄としても、とても嬉しい。

 だけど今日一日一緒にいて、俺にも思うところがあるのは間違いなく……。


「俺だけに見せてくれた小夏の可愛い姿が、他の人に見られるのが悔しいんです」

「お前めんどくせーなー!?」


 俺の真剣な悩みに、部長は眉をひそめた。

 何故だ。

 そう思うのは当然の事じゃないのか……?

 家でだけ見せてくれた、俺だけが知る小夏の姿が周知の事実になっていく。

 受け入れられて嬉しいのに、それはそれとして胸の中にモヤモヤが生まれるんだ。


「め、めんどくさいって……俺はただ――」

「うるせー知るかアホ! そう思うんだったら直接言えば済むだろオラー!!」

「――ちょ、ちょっとぉ!?」


 部長が俺の背中を押す。

 それはもう、女子達をかき分けて小夏の前に行くまで押しまくっていた。

 背後から急に近寄ってきた俺に驚いた女子達が二つに避けていく様は、海が割れていくような爽快感と同時にまるで避けられているみたいな悲壮感を感じてしまう。


「あぁ~! 噂の鷹臣くんが来たよぉ~!」


 部長に押され、途端に女子に囲まれる俺。

 小夏の隣には佳穂がいて、俺の後ろには背中を押して逃がさない部長がいる。


「えっと、噂って……?」


 完全な八方塞がりの中で、俺はさも今聞きましたみたいな顔をする。

 だってそうだろう! こんな女子の集まりに自分からツッコんで「呼んだ?」とか出来る訳ないだろうが!!


「むふふぅ~! それはねぇ~、小夏ちゃ~ん!」

「ひゃぁっ!?」


 幸いにもお喋り好きなムードメーカーの佳穂がそれに乗ってくれた。

 彼女は俺の後ろにいる部長と同じように、小夏の後ろに回ってその肩を掴む。


 気づけば女子に囲まれる中で俺と小夏は真正面から向き合ってしまった。


「な、何でもないよ、()()()()()()……っ!!」

「ばっ!?」


 ――そして。

 目を見開き、焦った小夏の口から不意に飛び出したのは。


『お、おにいちゃんーっ!?』


 たった六文字の、爆弾発言だったんだ。

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