第20話 「せんぱい、せんぱい!せんぱ~い!」
「せんぱい、せんぱい! せんぱ~い!」
次の日の昼休み。
昨晩小夏に抱きしめられながら甘えられたせいで一睡も眠れなかった俺が、これから安らかな昼寝を決めようとした時に、小夏が俺の教室に現れた。
まるで昨日の佳穂の再来とも言えるけど、佳穂の時とはまるで事情が違っていた。
「え、今日も、誰……?」
「あの上履きの色、一年生だけど誰かに用事なのかな……?」
「あれ、ひょっとして俺、先輩だったかもしれない……」
「学年的には先輩だけど絶対にお前じゃねーよ……」
昨日の今日の事なのでクラスメイト達がざわつき出す。
それだけ二年生の教室に一年生が来ると言うのは、特別すぎるイベントだったんだ。
「たかおみせんぱ~い! 可愛い可愛い彼女がお昼のお誘いに来たっスよ~!!」
「馬鹿お前っ!?」
そこに投下される爆弾。
ほとんどが初めましての連中に対する自己紹介にしてのそれは、内容も声量も大きすぎたんだ。
「鷹臣!? またお前なのか!?」
「え、昨日隣のクラスの綿引さんに呼ばれたよなどういう事だよ!?」
「二股!? 二股なのか!? 二股が良いかどうかはともかく、どうやったらそんなにモテるのか教えてくれねぇか!?」
「鷹臣くんって、硬派に見えて結構遊んでるんだ……」
大変な事になってしまった。
俺の噂がある事ない事広がっていく。
教室が一気にざわつき出す中で、ウキウキな小夏が俺に駆け寄ってきた。
「せんぱい! 行きましょうっス~!!」
「いや、ちょ、おまぁ!?」
そして教室の混乱をものともせずに。
小夏は俺の手を引いて教室を飛び出していくのだった。
◆
「はいせんぱい! あ~んっス!」
「お前、なぁ……」
「あ~んっス!」
「……あ~ん」
周囲の視線が痛すぎる。
昼休み、学生食堂のど真ん中で俺は小夏にあ~んをされていた。
あ~んをしやすい学食がカレーしかないので、今日もカレーである。
今日のカレーは甘口だった。
「えへへ、美味しいっスか?」
「……あぁ」
美味しいと言えば、美味しい。
だけど正直緊張で味を楽しめる余裕が無かった。
さっきも言ったけどここは食堂のど真ん中である。
昨日は端でコソコソしていたから何とかなったけど今日は人の往来が激しい場所で小夏が見せつけるように大声であ~んをしている。
何故そんな席に俺達が座れているかと言えば――。
「いやぁ~、仲良しな二人は参考になるねぇ~。うん、すっごい良いよぉ~!」
「佳穂ちゃん先輩! ありがとうっス!」
「ううん、こんな事しか出来ないけど、私の方こそ昨日はごめんねぇ~」
――佳穂の差し金だった。
二人の会話から察するに、昼休みが始まってすぐにこの席を佳穂が確保したようである。
元気なボーイッシュな可愛い後輩にあ~んをされながら、隣ではおっとりとした可愛い同級生にニコニコと見られている、そんな昼休み。
周囲から注目を集めない筈がなかった。
「私、気づいたんだぁ……。無理に理想の王子様を探さなくてもぉ、二人の事を応援してればキュンキュン出来るなぁって~」
「それで良いのか!?」
「人生はねぇ、トライアンドエラ~、なんだよぉ~。何度もぶつかって強くなる~」
佳穂がそれっぽい事を言っている。
何か丸め込まれそうになるけれど、それはそれとして二人の間に遺恨が残って無さそうなのはホッとしていた。
口ではキュンキュンとか言ってるが、佳穂も小夏の為にこの席を頑張って取ったんだと思うと良い先輩だなと感じる。
「あ、あれが陸上部で噂のプレイボーイ……」
「男でも女でも日焼けしてれば良いって話だぜ……」
「で、でも隣にいる子は色白だぞ!?」
「馬鹿お前、ああいう子を日焼け肌に、自分色に染めるのが趣味なんだよ!!」
まあそのせいで、大変な事になっているけれど。
こんな形で有名になるのは流石にヤバくないか!?
「せんぱい! あ~んっス!」
だけど小夏はそんな事一切気にせず、嬉しそうに俺にあ~んをしてくる。
家でも学校でも、昨日の夜から小夏がどんどん積極的になっていったんだ。




