第19話 「おにいちゃん、入るよ……?」
「おにいちゃん、入るよ……?」
「お、おう……!」
小夏が控えめに俺の部屋の扉をノックする。
夜、と言うには日付が回っていて、少し遅すぎる時間だった。
静かに開いた扉から、オレンジ色のカチューシャにフチなしのメガネをかけた義妹モードの小夏が顔を出す。
その手には、いつも使っている小夏愛用の枕が抱かれていた。
「お、お待たせ……」
「い、いや大丈夫だ……!」
何故俺達はデートのようなやり取りを自分の家でやっているんだろう。
それもこれも夕食後、小夏が今日は一緒に寝たいと言った事が原因だった。
まだ義母さんが家に帰って来る可能性があったのである。
あの時間帯は連絡が来たばかりだから家の中で先輩後輩としてイチャついていても大丈夫だった。
だけど小夏と家族が大好きな義母さんは、仕事でトラブルがあって帰れないかもと言った時も全力で仕事を終わらせて帰って来る事が結構あった事を俺はこの二ヶ月間の間に何度も見てきている。
それは当然小夏も知っているので、俺達は終電が過ぎて確実に義母さんが帰ってこない時間まで、悶々としながらお互いの部屋で待機していたんだ。
「ご、ごめんね……わがまま、言っちゃって……」
「い、いいや……元々は、俺が悪いから、気にしないでくれ……」
「う、うん……」
恋人になったとは言え、小夏と一緒に寝るのは初めてである。
その理由はもちろん俺達が実家暮らし、小夏の家で暮らしているからだった。
想いが通じ合って関係が進んだけど、それはそれとして俺達の両親にはまだ言えない状態なのである。
だからお互いに歯止めがかからなくならないように、まだ色々と抑えているのだ。
「じゃ、じゃあ……お、お邪魔します……」
「ど、どうぞ……」
その歯止めが、一つ外れようとしている。
俺が眠るベッドに自分の枕を置いて、小夏が入ってきたのだ。
当然明日も学校はあるし、一緒に寝ると言うのは言葉通りだから変な意味はない。
……そうは分かっていても、緊張するだろこんなの!
好きな人と一緒に寝るんだぞ!?
「あ、ちょっと待ってね……」
「……小夏?」
「寝る時、メガネ取らないとだから……」
「……ああ」
小夏がベッド横にある俺の勉強机に自分のメガネを置く。
メガネを置き、ちょっと恥ずかしそうに微笑むその姿にグッと来てしまった。
「えへへ……こ、これで何も見えないから……おにいちゃんに何されても、わ、分からないね……」
「そ、そういう事を言うんじゃありません!」
急に俺もお義兄ちゃんモードになってしまった。
だって小夏がそんな殺し文句を言いながら俺のベッドに入り込んで来たんだぞ!
素の大人しい義妹モードでも、学校生活で培われた悪戯な後輩モードは健在というかむしろ破壊力を上げて共存していたんだ。
「おにいちゃんの匂い……」
「お、俺のベッドだからな!?」
自分の枕に頭を置いて、一緒の掛け布団に入った小夏が暗闇の中でモゾモゾする。
そうだ暗いんだからメガネとか関係なしに俺も見えないじゃないか!
なんて変な思考が頭の中を走るぐらい、俺の頭がパニックになっていた。
「おにいちゃん……」
「な、何だ!?」
「ぎゅー、して……?」
「はい喜んで!!」
寝る前のテンションじゃなかった。
俺は暗闇の中で、条件反射に大声を出してしまう。
その勢いで抱き寄せた小夏の身体は、お風呂上りだからかリビングで抱きしめた時よりも柔らかく感じた。
「えへへ、苦しいよ。おにいちゃん……」
「わ、悪い……」
「もっとして、良いよ……?」
「っ!?」
俺に抱きしめられながら、小夏が耳元で囁いてくる。
ヤバい。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!
小夏の声が、匂いが、体温が、柔らかさが。全部が俺を誘惑している。
昼間に佳穂としたあ~んが、本当にお試しと言うかおままごとだと思えるぐらい、今の小夏の攻めっぷりがとんでもなくヤバかった。
「おにいちゃん、おにいちゃん……」
「こ、こなっ、こなぁ!?」
抱きしめているのは俺だが、そんな俺の胸元に、小夏が顔をグリグリと押し付けている。
その度に綺麗な黒髪から、見えないが小夏の黒髪から、お風呂上がりの良い匂いが漂って俺の煩悩を刺激しまくっていたんだ。




