第17話 「せんぱい、浮気っスよ!!」
昼休み、学生食堂で佳穂にあ~んをしている所を小夏に見られた。
佳穂はお試しで恋が知りたかっただけとは言え、現行犯なので俺を含めて何一つ言い訳が出来なくて――。
「がるるるるるるるるっ!!」
「こ、小夏ちゃぁん……違うんだよぉ~……!」
――放課後の校庭で。
小夏が佳穂に威嚇をしまくっていた。
何とか弁明しようとしていた佳穂なのだが小夏は一切聞く耳を持っておらず、どうしようどうしようとオロオロしていた。
「小夏ちゃんのお話を聞いてどんな感じなのかなぁって思っただけでぇ、鷹臣くんを盗ろうとか思ってないんだよぉ~……」
「シャーッ!!」
小夏が吠える。
犬科なのか猫なのか。
義妹と後輩を使い分ける小夏にとってはどちらの威嚇もお手の物だった。
「鷹臣くんも助けてよぉ~……助けてくれるって言ったじゃぁん……」
「いや、俺は……」
「せんぱい浮気っスよ!! 駄目っス駄目っス! 佳穂ちゃん先輩はとんでもない泥棒猫だったっス!!」
佳穂が俺に助けを求める。
そんな俺は横から抱きついていた小夏にグイっと引っ張られてしまう。
「泥棒しないよぉ~」
「聞いちゃ駄目っスせんぱい! あのゆるふわボイスで獲物を狙ってるっスよ!!」
「分かったから、せめて離してくれないか……」
「嫌っス!!」
……そうなのだ。
昼休み以降、小夏は怒りながらも俺にベッタリくっついて離れなかった。
嬉しい、と言う気持ちと同時に申し訳ないという気持ちでいっぱいになる。
家でのしおらしい小夏を知っているので、きっと不安にさせてしまったんだろう。
「修羅場、修羅場よ……!」
「まさか部活で生の修羅場が見れるなんて……!」
「ちくしょう鷹臣、役得過ぎんだろマジでお前……!」
「やっぱり足か、足の速さで全てが決まる世界なのかここは……!」
そんな俺達の様子を遠巻きから男女問わず陸上部員達がヒソヒソと見ていた。
一度隠そうとしたのが嘘のように今となっては公然の間柄になってしまっている。
覚悟を決めた俺は一身でそのヘイトを買い小夏を守る所存だった。
……まあ、その原因も俺なんだけども。
「おお、やってんなー!」
「ぶ、部長!?」
そんな部員の中からユニフォーム姿の部長が現れる。
つい先日正式に進路が決まった部長は限られた時間の手伝いだけじゃなく、本格的に冬の駅伝に向けて練習に復帰したんだ。
小夏と同じ、いやそれ以上に濃く日焼けした肌。
肩より少し長い黒髪をポニーテールで纏めて、勝ち気な表情は今日も健在だった。
学校指定の赤いユニフォームはそのアスリート体型の身体のラインを芸術のように際立たせている。
本人は気にしているが小ぶりな胸も。
長い時間の研鑽で割れて露出した腹筋も。
長距離の為に無駄をそぎ落とされたその太ももも。
その要素全てが、彼女を陸上部部長だと証明付けていたんだ。
「事情はだいたい聞いてんぜー? 鷹臣お前、人生の春じゃねーか!」
「言ってる場合ですか!?」
「いやいや楽しまなきゃ損だろーが! 楽々浦を満足させながらさらし者になる事が、お前に出来る断罪だぜ?」
ケラケラと部長が笑う。
確かに小夏の秘密画像に目が眩んでしまった俺が悪い。
俺と小夏の事情を知っている部長は、自然と俺達をフォローしてくれていたんだ。
「くるみ先輩も近づいちゃ駄目っスー!!」
「な、なにっ!?」
だけど小夏は部長にも威嚇を始める。
「せんぱいは私や部長みたいな日焼けした女の子が三度のご飯より大好きなんス! だからくるみ先輩がユニフォーム姿でいるだけで鷹臣せんぱいは興奮しちゃうんスよ!?」
「鷹臣お前、そうなのか……!?」
「ご、誤解! 誤解ですよ!?」
更には誤解を招く事を言い出した。
俺が好きなのは小夏であって、決して日焼けした女の子ではないのである。
「そ、そんな……楠木先輩が日焼けフェチだったなんて……!」
「楠木先輩が部長になったら、来年から日焼け止めが禁止されるんだわ……!」
「ま、まさか男子更衣室で熱い視線を俺達が向けられてたのって……!?」
「歴史に名を残す男は節操が無いって話、現代日本もそうなのかよ……!?」
しかし誤解が誤解を生み、いつしか俺の浮気騒動は……。
俺が男女問わず、重度の日焼け肌フェチという性癖暴露に変わってしまったんだ。




