【2章完】悪嫁ジェシカのしあわせな結婚
――想いを確かめ合った日から、季節はゆっくり移り変わっていった。
今は、実りの秋。
収穫祭の準備に湧くノイエ=レーベン侯爵領にも、穏やかな風が吹いている。
領主邸の庭では、ガーデンパーティの設営が進んでいた。
格式ばった式典ではない。
領地の恵みを囲んで味わい、みんなで楽しむホームパーティだ。
招くのは、ごく身近で大切な人たち。
レオンの姉であるアニエス様と、甥のテオ様。
私の実両親。
色々とお世話になっている従弟のカシウス・ダリアンも呼んでいる。
そして当家を支える使用人たちも、今日は大切な招待客だ。
家令ガードナーの晴れやかな声が響いた。
「皆様。新郎新婦のご入場です!」
花々を編み込んだ色鮮やかなアーチに視線が集まる。
そこに立つのは白い礼装のアレクを真ん中に、レオンと花嫁姿の私。三人並んで、手を繋いで歩み出す。
一度目の結婚式では、心を通わすゆとりもなかった。だから私たちは、もう一度やり直すことにしたのだ。
小さくて温かい、幸せいっぱいの結婚式を。
「おめでとう、レオン、ジェシカさん!」
「アレクくん、かっこいい」
アニエス様とテオ様が、大きな笑みを浮かべている。
「幸せにな」
手を振るカシウスも楽しげだ。
「ジェシカ奥様―! お美しいです!!」
モニカは興奮気味に身を乗り出していた。
『くぅ』
『クゥゥゥ』
花籠を加えた二頭の竜が、上空から花弁を巻き散らしてくれた。薄紅色の花吹雪が、とてもきれい。
心からの祝福に包まれて、全員が笑っていた。
私たちが壇上に立つと、ガードナーが声を発した。
「今日のよき日にお集まりいただいた皆様。この地の実りと、このご家族の絆をご祝福くださいませ!」
庭園中に拍手が弾け、カードナーがいたずらっぽく続ける。
「それでは、レオン閣下とジェシカ奥様。誓いの口づけを!」
「……えっ?」
ガードナーったら、何を言っているの。
いくら結婚式のやり直しと言っても、そこまでは……。
「ほら。お父様、お母様」
アレクが、目を輝かせて見上げている。
「ジェシカ」
慈しむように、名を呼ばれた。
優しい笑みに見惚れるうちに、そっと腰を引き寄せられていた。
唇が重なる。
溢れんばかりの拍手と歓声。
甘酸っぱくて、ふわふわしてくる。
こんな幸せがあるなんて……。
――これは、義母にすべてを奪われて、したたかな悪嫁を目指した私の物語。
ひとりぼっちだった私は、アレクを取り返すためならどんな悪にもなる覚悟だった。
……でも。
悪嫁ジェシカは、いったん『悪嫁』を返上しますね!
これからは、最愛の旦那様と息子と一緒に、笑顔の絶えない家庭を作ります。
もちろん、私の大事な家族に手を出す人が現れたときは、必ず悪嫁に戻りますので。
私、絶対に容赦しませんので……。
そのときはまた、どうぞよろしくお願いします。
最後までお読みくださり、本当にありがとうございました!
ご声援のおかげでコミカライズが決まりました。コミカライズ版でまたお目に掛かれることを、心より楽しみにしております。
無限に続きも思い浮かんでいるのですが、ジェシカがいったん悪嫁をやめた第二章で一区切りとさせていただきます。(第二子とか、アレクの婚約者とか書きたいなぁ……
【読者様へ】応援いただいたささやかなお礼として、新作短編をUPしました。
⇒『愚か者が自滅するのを、近くで見ていただけですから』 さっくり読めるハピエンです。お楽しみいただけましたら幸いです^^
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【編集部様へ】小説書籍の権利は今現在あいておりますので、お気軽にお問合せいただければ幸いです(許可済)。
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1月にも長編をUPできるよう、ただいま鋭意制作中です! これからもよろしくお願いいたします。





