表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ王子は働きたくない。 ~なのに、現代知識で戦も政治も無双してしまうので、周囲の期待がとんでもない~  作者: タライ和治


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/29

23.殲滅戦

 戦いの準備を整えた『緑の斧』が拠点を空にし、『巨岩の怒り』の元へと向かった――。


 そんな報告が密偵からもたらされたのは、俺がブルーノを訪ねた三日後のことだった。


「意外と行動が早いな」


 とはいえ、わざとらしく意味深な言葉を残してきたこちらとしては、わざわざ足を運んだかいがあったというものである。


 最初の訪問なんて、無垢な少年を演じるのに苦労したもんなあ。心の中に潜むオッサンの魂が表情に表れないかと緊張してたし。


 あと、ブルーノに贈った白馬も効いたね。わざわざ、レオンハルトに頼んで立派な軍馬を用意してもらったかいがあったものだよ。


「私としては、あそこまで用意周到にしなくともという思いがあるのですが……」


 執務机の前で佇立する美丈夫はそう言うと、苦笑いとも戸惑いとも受け取れる面持ちを浮かべるのだった。


「いやいや、念には念を入れる必要があるんだよ、レオンハルト。こちらがブルーノを恐れているという芝居に説得力を持たせるためにも、貢ぎ物は必要だったのさ」


 こちらが酒を持って挨拶に向かう。増長したブルーノがさらなる要求を突きつけてくるのは想像に難くない。


 第一の要求としては、もちろん金銭が挙げられるだろう。それがなかった場合、なにをせびられるか? 戦士として重要な軍馬を望むのではないか? そう踏んだのだ。


 予想としては見事に的中。レオンハルトの労苦は報われたと、そういうわけだ。


 いやね、最初は国王陛下から下賜された、俺の愛馬でもよかったかなと考えたんだけどね。いろいろ考えて、さすがにそれはどうかなと思いとどまったわけ。


 宝石類とか貴金属を商人に振り払うのはまだいいとして、盗賊やら山賊に国王から下賜されたものを譲渡するのは、言い訳のしようがない。


 そんな事情から、レオンハルトにわざわざ白馬を用意してもらった、と。まあ、それも討伐の際に返してもらうつもりだけどさ。


 ともあれ、これで舞台は整った。


「出撃の準備はできているかな?」


 こちらの問いかけに灰色の長髪をした若き将軍は、一礼する。


「もちろんです。アルフォンス様のご命令があり次第、いつでも出られます」


 俺は頷き、執務机に周辺の地図を広げて、最終的な作戦の確認に移った。


「ライナーとブルーノたちは、『巨岩の怒り』の拠点で相打っている。我々が介入するのは、ある程度、戦いが推移した時点でだ」


 地図の上に置いた駒を動かしつつ、俺はレオンハルトに指示を出した。


「この時、最優先でライナーとブルーノを討ち取る。指揮官である頭目を失えば、あとは烏合の衆に過ぎない。討伐は比較的容易に進むだろう」

「こちらの道に伏せた兵たちは?」

「ライナーを討ち取ったとき、『緑の斧』の賊たちは自分たちの拠点を目指して逃走を始めるだろう。それを狙うため、拠点までの道のりに兵を伏せておくのさ」


 二つの勢力を相手にするのだ。できれば全兵力をぶつけたいところだけど、ここで賊を叩き潰すためにも、伏兵のためにある程度の兵力を割かなければならない。


 俺の話に耳を傾けていたレオンハルトは、「承知いたしました」と頭を下げて、それからややあって語をついだ。


「しかし、本当によろしいのですか?」

「なにがだい?」

「降伏や捕虜を認めないという方針ですが」

「……ああ、それについてはもう撤回するつもりはない。彼らには申し訳ないけどね」


 長年に渡り領内を苦しめ続けてきた賊なのだ。領民たちの憎悪を買ってきた相手でもある。


 俺が民心を得るためにも、そして犯罪行為は一切見過ごさないという姿勢を打ち出すためにも、完膚なきまでに討伐を完遂する必要性があるのだ。


 そして治安は万全ですよと言う政治的なメッセージを打ち出すことが、ひいてはアーベントラントの再興につながる。


「いわば、彼らには復興のための生け贄になってもらおうというわけだよ。我ながら悪辣で嫌になるけどね」

「そのようなことは……」

「いやいや、本来であれば、きちんとした法の下で裁かれるはずなんだ。それを為政者の勝手で命を奪われなければならないとなれば、彼らも浮かばれないだろうな」


 やれやれ、俺も宮中で権謀術数を巡らせる王侯貴族と変わりないな。結局のところ、権威や権力を守りたい連中と大差ないのだ。


「恐れながら、アルフォンス様。アルフォンス様は民を思って賊を討伐されるのです。宮中にいる貴族たちとはわけが違います。ご自分を貶めなさいませぬよう」

「ありがとう、レオンハルト。そう言ってもらえて、幾分か救われた。とはいえ、現状はまだ事をなしていないからね。自分を慰めるのは無事に賊を討ち取ってからにするよ」


 席を立った俺は、レオンハルトを引き連れ執務室を後にした。緊張の微粒子が身体を包む中、廊下の向こう側から碧眼をした美貌の補佐官が近づいてくる。


「殿下、ご出発でございますか?」

「ああ、エレオノーラ殿。留守を任せる。本日をもって賊の脅威は無くなるので、どうか安心して欲しいと民たちに伝えて欲しい」

「そうなることを期待しております。ですが、民たちに伝えるのは殿下からがよろしいかと。もし、打ち損じることがあれば、民も落胆するでしょうし」


 対面するクールビューティーは淡々とした様子で応じ、俺は内心で肩をすくめた。やれやれ、俺のことは嫌いでもいいけど、レオンハルトや兵士たちの能力は信じてあげて欲しいなあ。


「期待に応えるよう、善処しよう」


 せいぜい俺はそう答えると、うやうやしく頭を下げる補佐官の横を通り過ぎ、それから思い出したように呟いた。


「ああ、そうだ。エレオノーラ殿。ご面倒をおかけするが、お願いを聞いていただけないだろうか」

「なんでしょうか?」


「食料庫にある酒をすべて出しておいて欲しい。それに肉や魚など、買っておいてくれないかな。もちろん、私が身銭を切る」

「……打ち損じた賊に貢ぎ物でも持って行かれるおつもりですか」


 露骨な嫌味を呈するエレオノーラに、俺は軽く微笑んだ。


「違うよ、エレオノーラ殿。賊討伐を果たした兵たちをいたわるために、酒宴をもうけたいのさ」


***


 山賊団『巨岩の怒り』の拠点近くには、無数の死体が転がっていて、赤黒い染みをところかしこに作っていた。


 眼球に槍が突き刺さったまま絶命している者、腹部から内臓をむき出しにして死んでいる者など、目にするだけで吐き気を催すけれど、ここでひるむわけにはいかない。


 謀略を巡らせた者として、この事態を引き起こした者として、責任を持たなければならないのだ。


 奥の方では罵声と怒声、そして絶叫が混じり合い、金属音がぶつかり合う音が響き渡る。


 俺はレオンハルトに視線を送り、頷くのを確認すると愛馬を走らせ、戦場へと急いだ。


***


「裏切り者!」

「血迷ったか!」


 双方の陣営からそんな声が上がっている。山賊と盗賊が血走った目で互いの命を奪い合う中、俺は視線を走らせると、見覚えのある白馬にまたがった筋肉質の男で瞳を止めた。


 ブルーノは全身を怒りに震わせながら、栗色の馬にまたがった男と刃を交わしている。俺は大きく息を吸い込み、それからあたり一帯に聞こえるよう、声を張り上げるのだった。


「やあやあ、ブルーノ殿! わざわざ訪ねてきたと思えば、こんな醜態を目にするとは! いかがされたのかな!」


 こちらの声が届いたようで、馬上の二人は手を止めると眼差しを移動させる。


「小僧! アルフォンス! ライナーの野郎を使って、このおれ様を罠にはめたな!」

「アルフォンス!? 貴様が新しい領主か! ブルーノと密約を結び、このライナーを討ち取ろうとしたな!」

「黙れ! 誰がこんな小僧と密約など結ぶか!」

「何を言うか、貴族の狗が!」


 なるほど、頭目同士、一騎打ちをしていた最中らしい。それなら好都合と、俺はわざとらしく口角をゆがめ、思いつく限りの罵詈雑言を浴びせかけるのだった。


「心外だな! 引きこもっては蛮勇を振るう山猿と、自らの浅知恵に溺れる狐に、決着をつける場を用意してあげたのだ! せいぜい感謝してもらわなければ、このアルフォンス、策を弄したかいがないというもの!」

「小僧っ……! このブルーノ様を山猿だと!」

「やはり貴様が裏で糸を引いていたのか!」

「いやはや、二人とも、私の手のひらで踊り狂ってくださった! もっとも、これほどまで容易に踊っていただけるとは思ってもいませんでしたがな!」


 うーん、我ながら悪役っぷりというか、嫌われ者が板についてきたな。ミヒャエルやエーミールのことを言ってられないぞ、これは。


 まあ、いいや。嫌われることには慣れているしな、こうなったらとことん、徹底的に嫌われておこうじゃないか。


 だってほら、その証拠に、二人とも全身から殺気を放って、今まさに俺を殺そうと馬を走らせてきているし。


 腰にかけた剣を引き抜き、猪突するブルーノとライナーに対峙する。すると、俺を守るようにして、漆黒の馬にまたがったレオンハルトが二人の進路を塞いだ。


「邪魔するな若造!!!」

「このライナーにかなうと思っているのか!!」


 恫喝に震えるでもなく、レオンハルトは静かに剣を抜き放つ。そして剣を振り上げたライナーに向き直り、馬を走らせた。


 一瞬。一瞬だった。


 レオンハルトの一閃により、ライナーの首から上が切り離されると、大きく身惹かれた瞳はそのままに、頭部が地面へと落下していったのだ。


 そしてレオンハルトは、何事もなかったかのように剣を一振りしてみせる。剣先についた赤い液体がふるい落とされ、見事な銀色に輝いている。


「おのれ……!」


 その様子に気圧されたのか、ややあってからブルーノが突進する。片手斧を振り上げ、気勢を上げる山賊に、灰色の長髪をした美丈夫は向き直ると、再び馬を走らせた。


 そして、今まさにブルーノが斧を振り下ろそうとしていた、まさにその時。斧を握っていた腕が、レオンハルトの一振りによって切り落とされたのである。


 ブルーノの右半身から血が噴き出す。思わず顔をゆがめる山賊の頭部が、腕に続いて落下していったのは、その二秒ほど後のことだった。


「親分がやられた!?」

「なんだあいつ!! めちゃくちゃ強えぞ!?」

「このままじゃ殺されちまう!!!!」

「逃げろ!! 逃げるんだ!!」


 二人の頭目が絶命した直後、賊たちは争うことを止め、文字通り蜘蛛の子を散らすように逃走を始めた。


 手に持った武器を投げ放ち、ただただ生存本能に任せて身体を突き動かしている。恐怖に顔を支配される様子に、俺はひたすら自己嫌悪に陥りながら、それをぐっとこらえ、兵士たちに聞こえるよう声を張り上げた。


「頭目たちは討ち取った! 賊は一人たりとも生かして残すな! すべて討ち取るのだ!」


 耳をつんざく、「おお!」と応じる声が響き渡り、両脇を兵士たちが駆け抜けていく。あたりはますます凄惨な様相を呈し始め、血なまぐさい殲滅戦は幕を開けた。


 そしてこの日、悪名高き二つの賊は、地上からその姿を消すことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ