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嫌われ王子は働きたくない。 ~なのに、現代知識で戦も政治も無双してしまうので、周囲の期待がとんでもない~  作者: タライ和治


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14.王宮の書庫にて

 やあ、みんな。読書っていいよね? 特に、厄介な親族と不毛な時間を過ごした後の読書なんか、最高の癒やしの時間さっ。


 そんなわけで、こんにちは。本日はベルンハルト王国宮中にある、大書庫の一角からお届けしております。


 いやあ、恩賞会議の後、陛下から呼び出されたじゃない? 国王が絡むから、恩賞を賜るのも、それほど時間がかからないだろうなって思っていたのさ。


 それが一週間経った現在ですら音沙汰がないんですよ。これはもう、次兄殿下のエーミールがいろいろ企んでいるんだろうなと、嫌な予感しかしないわけ。


 そりゃあ俺だって、もう少し物事を楽天的に考えたいと思ってはいるんですけどね。いかんせん、前世が会社務めだったもので、守りの思考が染みついているんだよなあ。


 楽観視して物事を進めた挙げ句、苦い経験となった記憶が付いて離れない以上、最悪を想定しておくのは仕方ないというか。


 とはいえ、同時に、あまり不健康な考えを抱くのはいかがなものかとも考えるわけだ。


 ……で。そこで読書ですよ。


 つらい現実を忘れられるだけでなく、知識や教養も身について、まさに俺得な時間を過ごせるとあれば、毎日のように書庫へ通うのは当然の心理なんじゃないかと。


 まあ、ぶっちゃけてしまうと、第七王子として宮中に招かれてから、俺はほぼ毎日のように、この書庫へ足繁く通っていたんだけどね。


 理由? そりゃあもう、単純明快。宮中に居場所がなかったんだな。


 殿下たちをはじめ、王侯貴族の人々って、日々の暮らしがルーティン化しているんだよね。昼はお茶会、夜はパーティみたいな感じ。で、俺はそこに呼ばれないわけ。


 すでに王子たちの二大派閥が展開される中、いきなり現れた第七王子。しかも迫害された少数民族の庶子とあっては、貴族たちの受けがよろしくない。


 誰もが自宅や夜会へ招くのをためらう中、俺も俺で、自然とそういう人々を遠ざけるようになったと、そういう次第なのだ。


 これでも最初の頃は、親睦を深めるために、自分が主催のパーティでも開いて、王侯貴族たちを招こうかなとか考えたわけさ。


 でもほら、誰も来なかったらそれはそれで悲しいし。なんか、昔のアニメであったじゃない。クリスマスパーティ開いたのに、誰も来なくてバッドエンドみたいなやつ。実際にそんな目に遭ったら、立ち直れる自信ないもん。


 あとね、正直に言ってしまうと、あの連中……じゃなかった、王侯貴族の人たちって、あんまり関わりたくない性格をしてるんだよな。


 もう、なんていうの。創作とかにありがちな特権階級の意識を全面に出してます、みたいな? 庶民の暮らし、知ったこっちゃないみたいな、そういう人たちばっかり。


 宮中にきてからというもの、賄賂のやり取りや利権を巡る談合なんか、日常茶飯事のように嫌でも耳に入るわけだ。こっちの世界に労働基準監督署があれば、駆け込んでやりたい気分に駆られたよね。


 そういった事情も相まって、俺の将来設計図は自然と描き出されていったという次第なのだ。『こういった連中と関わらずに生きていこう!』ってね。


 宮中で普通に暮らしていけば、お金はそこそこ貯まるだろう。そこで、手頃な土地を購入し、第七王子の立場を離れ、のんびりと悠々自適な生活を送る……。前世はブラックに近い職場環境の中、短い睡眠時間で汗水垂らして働いていたのだ。このぐらいゆとりのある生活を送ったところで罰は当たらないと思うんだよな。


 それに、隠居生活にも様々な利点がある。まず、暗殺の危険性が薄まること。


 ミヒャエル派にもエーミール派にも属していない――というより、どちらからとも嫌われている――第七王子という立場は非常に危うい。いまでこそ邪魔者扱いされている身なのだ。国王陛下が存命している現状はまだ安心できるかも知れないけれど、将来、害される可能性は少なくない。


 あとはね、国政と関わらずにいられること。これも気持ちが楽になる。ゲラルトに紹介された商人の話や、実際に宮中へ足を運んでわかったのは、この国の政治、相当やばいって事実なんだよね。


 特に国民に課している税が異常すぎる。給料から引かれていた社会保険料が可愛く思えるレベル。にも関わらず、国庫がカツカツ。やばい以外に言葉がない。


 原因の一端でもある、王侯貴族のまばゆいばかりの暮らしを見ると、そりゃあそうなるよなあなんて納得しちゃいそうになるんだけど。本当に納得しちゃうのはよろしくない。


 じゃあ、第七王子の立場から国政に変化を求めるべきなんじゃないのって思うでしょう? 俺も少しは考えたよ、民衆のための政治ができないかってね。


 でもね、無理。無理ゲーなんですよ、これが。国政も宰相を筆頭に派閥が固められていて、入り込む余地がない。王子という立場を利用して、変に口出しでもしてごらんなさい。未来は毒死か暗殺の二択しかないってわけ。


 貴族に対する国民感情は最悪。そんな中、名ばかりの王子として暮らすのは、精神衛生上、非常によろしくない。結論としては、できるだけ早くこんな場所から離れたいってことに落ち着くのだ。


 隠居生活を送りたい理由は他にもあって、これはもっとも大きな理由になるんだけど。せっかく見知らぬ異世界で第二の人生を送っているからには、王国だけに留まらず、他の国にも行ってみたいなって。


 書庫の中には、それでこそ歴史書や政治経済にまつわる本、魔法について書かれたもの、兵法書や戦術書など、多岐に渡る書籍が保管されているんだけど、個人的に惹かれたのは諸外国の詳細が描かれた本だったりするのだ。


 だってさ、大陸の北部にはエルフの国とかあるんだよ? そりゃあ、是非ともお目にかかりたいよ。他にも北東部には巨大な宗教国家があったりするらしく、それはそれで興味が芽生えるわけだ。


 旅に出るにも、王子という肩書きは邪魔になる。長年、敵国として扱っているラインフェルト双鷲(そうしゅう)帝国にも行けやしないのはなかなかに厳しい。さっさと和解してくれないかなあとも思うんだけど、歴史書を読む限りでは、なかなかそうもいかない事情もあるようで……。


 おっと、話がそれてしまった。


 ま、とにかく、悠々自適な生活を送りたいという理由はわかってもらえたかと思う。つまらないと思われるかも知れないけれど、人様に迷惑をかけずに生きていけるなら、それで十分に幸せじゃないか。


 ……そういえば。


 レオンハルトと初めて顔を合わせたのも、この書庫だったなあ。宮中に招かれてから、半年ぐらいが経過していたような。


 いやあ、初めて会ったときには、こんなイケメンがいるんだなって思ったよね。めちゃくちゃビジュアルがいいんだもん。どこぞの俳優かモデルかと勘違いしちゃうぐらい。


 それでいて超真面目。他の貴族たちは決して足を踏み入れない書庫に、「兵法を学びに参りました」って黙々と本を読んでいたからね。若いのに偉いなあとしみじみ思ったものだよ。


「アルフォンス様」


 記憶の糸を辿っている最中、背後から弾むような声が耳に届いた。振り返った先には、灰色の長髪をした美丈夫が佇んでいて、心なしか微笑んでいるようにも見える。


「レオンハルト。わざわざ書庫までやってくるなんて、どうしたんだ?」

「お恥ずかしい話、時間を持て余しまして。兵法を学ぼうとここまで足を運んだところ、アルフォンスをお見かけした次第なのです」


 初めて会った時よりも、柔和な表情を浮かべる若き騎士は、うやうやしく一礼し、それから語をついだ。


「お邪魔でなければ、ご一緒してもかまわないでしょうか?」

「もちろん。というか、俺たち以外には利用する人がいないんだ。読まないと本がかわいそうだろう」


 せいぜい有効活用してやろうと続ける俺に、レオンハルトは「それもそうですね」と、頷いてみせる。


 そして思い思いに本を持ち寄った俺たちは、テーブルに腰を下ろし、黙々と目を通し始めるのだった。


 窓辺から穏やかな陽光が差し込み、ページをめくる音以外、あたりは静寂に包まれる。このような穏やかな時間が、隠居生活でも味わえるといいなと願いつつ、俺はレオンハルトとのひと時を過ごした。

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