8話 怒りの手刀
「ハァ……ハァ……」
走り続けてどのくらいたっただろう。
学校の近くまでは来たが体力が尽きかけていた。
前回は揺れの前に走っていなかったおかげで学校まで走って来れたが、今回は自宅に向かった際と公園に避難する際に走っている。
正直言って体力の限界だ。
春乃も文句を言わず黙々と走ってはいるが足取りは徐々に重くなってきている。
「……ハァ、ハァ。もうすぐ学校だけど一旦そこのベンチで休もう」
「……ゼー……で、でも速く行かないと危険なんじゃ……」
「しょうがないだろ、俺たちは元々体力が少ない方だし。なんなら、今日だけでかなりの距離走ってるからな」
「…………先に行ってて。すぐに追いつくから」
「――バカ!お前だけ置いてなんて行けねぇよ。ほら、さっさと座って休むぞ」
「……ごめんね。迷惑かけちゃって」
足を引っ張っていると思っているからか、声に元気がない。不安や恐怖、申し訳なさから彼女の目から雫が溢れる。
「……ウッウッ、ごめんね。ホントにごめんね……」
「泣くんじゃねぇよ、俺も体力が残ってなかったからお前のせいじゃねぇって」
「……たしかにカイちゃんも私と同じくらい、なんなら最近は私よりも体力落ちてたからね。持久走だって私以下だったし……」
「あ、ありぇは手を抜いてただけだし!」
心配して声をかければ、思わぬタイミングで痛い所を突かれ噛み噛みになってしまう。
「図星なんだ〜。フフッ」
――何がフフッだ、引っ叩いてやろうか。……まぁ元気が少し戻ってきたしここは水に流そう。
「あんなにずっと家でゲームしてるからだよっ。昔はよく外で遊んでたのに、最近はいっつもゲームばっかしなんだもん」
「うるさいなぁ、お前は俺の母さんかっ」
「体育だってしょっちゅうサボってるし、体育祭だって適当にやるし……」
「……」
――我慢、我慢だ。コイツの言ってることは正論なんだから……。
「だから私に負けちゃうんだよ?カイちゃんクラスでビリだったんだから。もっと私を見習って――アイタ!」
調子に乗り始めた春乃に制裁を与えるべく、手刀で頭を叩く。
「何すんの!全部事実じゃん!」
「そうだよ!?クラスでビリだよ!でも対して差がなかったお前を見習ってもほぼ変わんねぇだろうが!」
「――――!」
「――――!」
しばらくの間言い合いが続いた。すると近くから声がかかる。
「お前ら何やってんだよ、こんなところで……。よくまぁこの状況で痴話喧嘩出来るな。」
俺たちは言い合いをやめ、声のする方を睨みつけた。
そこに立っていたのは学校へ避難する途中だった細石だった。