一章 7話 危惧
「な、なんだアレ……」
20メートルをゆうに超える腕を見て驚愕する。
腕でアレだけの大きさならば全長はどれくらいになるのか。
――冗談じゃない。軍の持ってるCAならともかく、一般人じゃどうしようもねぇ……。
「カイちゃん……、アレ……なに……?」
揺れがおさまってきたことで周りを見る余裕が生まれたか、はたまた俺の言葉が聞こえたのかはわからないが、彼女もあの腕を見つけ呆気に取られている。
いや、恐怖で思考が停止しているのかもしれない。
しかし、いつまでもここにいてもどうしようもない。
かと言って学校へ避難してもまた同じことが起こる可能性が高いため、俺は最善の行動を考える。
父親の所属している軍の施設が最も安全である可能性は高いが、ここから数キロ離れている学校より更に先に行かなくてはならない。
今の時刻、学校で化け物を見たおおよその時間を考えると軍に着くまでに化け物と遭遇する確率は大いにある。
「とりあえず学校に向かう?」
「ダメだ。あそこには深夜には化け物が来ちまう」
「ど、どうしてわかるの?」
――しまった。こいつには俺がループしてきたことは伝えていない。
そんな時間があったかと聞かれたら、NOと答えるが、彼女に説明するには今からでは時間が足りない。
説明する余裕も時間もないため俺は適当な誤魔化しで乗り切ることにした。
「感だよ、感。というよりもあそこから学校までの距離じゃそこまで遠いとは言えないからな」
「そ、そうだね。でも……どうする……?」
「父さんがいる軍事施設まで行けば比較的安全だとは思うんだが、それまでにあの化け物と遭遇する可能性がある」
「……あんなのと会っちゃったら死んじゃうよね……」
「でも他に選択肢がない。いや、あるかもしれねぇけど思いつかない」
「……わかった。じゃあすぐにでも行こう」
「あぁ。……もし、仮にあの化け物と遭遇したらお前は全力で逃げろ。俺がなんとか時間を稼ぐから」
「……!いや、嫌だよ!その時は私が残る!」
「俺より足遅いんだからすぐに捕まっちまうだろ!」
「イヤダ!ヤダヤダヤダヤダヤダ!」
――駄々っ子かよ……。助かる可能性を考えたらこれが1番だろ!というか、速く逃げねぇと。
こんなところで言い合っていても仕方がないので、俺たちは軍事施設に向かって走り始める。
――あそこに行ければ、きっと助かる。……絶対にコイツだけは俺が守ってやるからな。
そう決意はしたがお互いに学校に行く途中で体力が無くなるんじゃないか、と危惧する廻人だった。