一章 6話 疲労
「……ハァ、ハァ。ダラダラ楽に暮らしてきたツケがきたか……」
部活に入らず、体育も手を抜いてきたツケが顕著に現れていた。
よく考えれば今まできちんと運動をしてきた覚えはない。昔は近くの公園で遊んでいた覚えはあるが、気がつけば家でゲーム三昧の毎日だった。
あ、でも時々某太鼓のゲームはやっていたからセーフだな!
そんなことはさておき、隣は俺よりも酷い状態だ。
「……ハァ……ゼハッ…………コヒュー……」
「春乃、大丈夫か?」
「コヒュッ!……ゼハー………………ガハッ……」
春乃は昔から運動においてポンコツだった。本人がやる気がある分、その空回り気味は周りが引くほど凄まじかった。
「すぐに取ってくるから、お前はここで座って休んでろ」
「……ゼー……ゼー…………」
コクリ、と確認が取れたので俺は急いで非常用バックを取りに向かう。
玄関の少し先にある棚には、いつもあるはずのバッグが置いていなかった。
今日は家にいる、と言っていた父の姿も見つからない。
「父さんはどこに行ったんだ?バッグも無いし……、クソっ」
苛立つ心を抑えきれず、近くにあった空のゴミ箱を蹴飛ばす。
――ピロピロピロリン
ポケットに入っていた携帯が鳴り響く。
「――もしもし!父さん!」
「あぁ、俺だ。カイ、お前今どこだ!?」
「今、家だ。非常用のバッグを……」
「――!すぐにそこから離れろ!できるだけ遠くに行くんだ!」
「……へ?わ、わかった!父さんは――」
――プツッ、ツー……ツー……
「あ、おいっ!……切りやがった。ざっくりどうなってんのか聞きたかったのに……。とりあえず春乃を連れて移動しよう。たしか近くに公園があったはず……」
俺は急いで春乃の元に向かう。
「春乃!少しは休めたか!?」
「……ウ、ウン。呼吸ハダイブオチツイタヨ」
「……なんか声枯れてね?まぁ、いいか。それじゃあ、ひとまず近くの公園まで移動しよう」
「ウン」
春乃の手を取り足早に公園へと向かう。
――走らないのは決して、体力が残ってないからじゃないぞっ。春乃がだいぶ疲れてるからだからな!
……
…………
………………
公園に着くと、そこでは何人かの子供が遊んでいた。
「フゥ、フゥ。とりまここまでくれば大丈夫だろ」
「私も喉治ったー!」
「ハァ、ハァ。治ってよかったな」
「カイちゃん、これぐらいで疲れてたらみんなに笑われちゃうよ?」
――1回しばいたろうか。俺よりも酷い有様だったお前に言われたくはない。
そんなことを考えていると、ドンッ、とあの揺れが襲ってきた。
「――!春乃、頭隠してしゃがんでろ!」
「ホ、ホントに来たぁぁぁぁぁあああ」
俺は春乃をしゃがませ、正確な発生時刻を調べ、揺れの長さを測るために携帯の電源をつける。
2、3分ほど経過したがまだ続いている。
5、6分経過した時には揺れは少しおさまってきた。
ふと、近くにある家のことがチラついてしまい、そちらの方角に目を向ける。
前回はそれどころじゃなく気が付かなかったが、そこに見えたものはあまりにも巨大な"腕"だった。