一章 5話 再び
――――え。
自分でも状況が理解できない。
ついさっきまで全身を駆け巡っていた痛みはもうない。
見るも無惨な光景が広がっているわけでもなく、目の前にあるのはいつもの見慣れた道だ。
「ゃん……カイちゃん!」
「……!……は、春乃…………?」
「どうしちゃったの、急に止まっちゃって」
「い、いや……。………………」
「よく見たら顔色も悪いよ。本当に大丈夫?」
「…………」
何も考えられない。
さっきまでの状況が脳裏に残っているせいで言葉すら出てこない。
――携帯……。
よく頭が回っていない中、携帯を取り出す。
――今はいつなんだ……。あれは夢だったのか……?
震える手を必死に扱い電源をつける。
そこに映っていたのは過去の時間。春乃と2人で帰っている途中の時間だ。
必死で思考を巡らせる。春乃が何か喋っているがそんなことは後回しだ。考えろ、考えろ、考え……。
「タイムリープ……」
「……へ?ほ、本当に大丈夫?厨二病の時期がついにきたの?カッコつけたいお年頃なの?」
「ちげぇよ!格好つけたいわけでもねぇよ。……一つ聞きたいんだが、今はフリマに寄った帰り道であってるか?」
「そ、そうだよ。本当に大丈夫……?」
「大丈夫じゃないけど大丈夫だ。でもなんで俺が……」
――タイムリープなぞ架空のものだと思ってた。まさか、よくある死に戻りなのか……?たしかにあの状況的に俺は一度死んでいてもおかしくない。
考えても考えても頭がスッキリとしないが気になるが、とりあえずはタイムリープということで自分を納得させる。
「春乃、これから多分、いや間違いなく地震が起きるかもしれない」
「ど、どっちなのさ……」
「まぁ、とにかく、少ししたら来るだろう父さんからの連絡を待つ。一旦俺の言うことを信じてくれないか?」
「……いいよ。なんかよくわかんないけどカイちゃんが焦ってるのはよくわかるから。」
「サンキュ。……じゃあこれから走って俺の家に行くぞ。父さんが念のために用意していた非常用のバックがあるからな」
「わ、わかった!」
そう言うと俺たちは走り出した。
目指すは自宅。非常用バックを持って父さんからの連絡に出る。
春乃を守るにはまずこうするしかない。
――絶対に2度は死なさない。
そう、心に誓ったのだった。