一章 4話 邂逅
「……」
日付が変わった深夜、俺はまだ眠れずにいた。
体の疲労よりかは不安からの精神的な疲れが蓄積している。
「カイちゃん、起きてる?」
横から小声で声がした。
そちらを向くと春乃が心配そうにこちらを見つめていた。
「ちょっと眠れなくてな。春乃こそ眠れないのか?」
「少しは眠れたみたいだけどすぐに目が覚めちゃって……」
「無理もないよな。まさかこんなことになるなんて、思っても見なかったんだから。でも寝れる時に寝ておけよ。余震が来てないとはいえまだわからないから」
「うん、……ありがとう…………ごめんね、すごい地震でどうしたらいいのかわからなくなっちゃって。怖くて何もできなかった……」
「しょうがないって。俺もたまたま父さんから有事の際の行動を教わってたから動けただけだ。……流石に映画はお預けになったけどな」
「……フフッ。そうだね。また今度遊びに行けばいいもんね」
「あぁ。きっとすぐに元に戻れるさ。きっと……」
「うん。……ホッとしたらまた眠くなってきちゃった」
「俺も少し落ち着けたよ。おやすみ、春乃」
「おやすみ、カイちゃん」
安堵からか眠気が一気に襲ってきた。腐れ縁って言ってもこんな時にこそ、こんな時だからこそ大切な存在だって気づくことができる。
――スゥ、スゥ
寝息を聞くとさらに眠気が来る。
そうさ、きっとすぐに的の生活に戻れる。
眠気に誘われるように目を閉じる。
――刹那、体を震わす轟音が鳴り響く。
「な、なんだ!?何が起きて……」
一瞬にして吹き飛んだ眠気。目を開けるとそこにはあったはずの教室はほとんどなく、ただ不気味な何かがこちらを凝視していた。
「カイちゃん!?なに、何が起きたの!?」
「廻人!なんだ、今の音……」
そう言ったのも束の間、伸びてきた何かの手によって世界が暗転した。
……
…………
………………
――いてぇ、体が動かねぇ……
体の感覚がほとんどないのか、動かない。
全身を襲う痛みを堪えて顔を上げると、そこには先ほどまで隣にいた細石の代わりに、赤く染まった塊が置かれていた。
「な……あ…………春乃……?…………細石……?」
喉の奥から絞り出した声に反応したのは1つ。
春乃だった。
「カ……イちゃ…ん?」
声のする方になんとか向くと、そこには体が真っ赤に染まり、今にも息絶えそうな彼女の姿があった。
「カイちゃ……ん、に……げて…………は……や…く………」
「春乃……?待ってろ……、いま……すぐに……助け……」
赤く染まった彼女を助けようと手を伸ばした瞬間、彼女の姿はなくなった。いや、何かの手によって押し潰されたのだ。
――あ。
彼女の死を悔やむ間も無く目の前が真っ白になった。