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45話 似通った者

「おい、本当に大丈夫なんだよな?」


 パイロットスーツを借りた(パクってきた)俺たちは、セージの対応に追われ慌ただしくなっている格納庫へとやって来た。


「大丈夫だって。あ、そこにいる人に聞いて見るか!すいませ〜〜ん」

「お……おい、ちょっと待てって!」


 止めようと声をかけたものの、彼は振り返りもせずに走って行ってしまった。


 

 ――

 ――――


「うっ……うっ……、あんなに怒鳴り散らさなくてもいいじゃないか……」


 最初は優しく断ってくれていたが、何度も頼み込んでいるうちに気がつくと大説教が始まってしまっていた。

 ズタボロに怒られ、半べそをかきながら格納庫の隅に戻って来て今に至る。


「だから言ったじゃねぇかよ。こんな状況で、はいどうぞなんて言ってくれるわけねぇじゃねぇかよ」

「ま、まぁまぁ。カイちゃんだって私たちのためにやってくれたんだし……」


 やめてくれ。

 今はその優しさが心に刺さるんだ。


「ハァ……これからどうするんだよ」


 細石は呆れたような口調で俺に問いかけてくる。

 ぶっちゃけこれ以上何も思いつかない。

 勝手にCAに乗ろうかとも考えたが、流石にそこまで行くと俺らは牢屋送りになってしまう。


「……どうしよう」

「まぁ、ここならだいぶ安全だろうし、このままここにいても――」

「お取り込み中のところちょっといいかな?」


 細石の言葉を遮り、女性がこちらに話しかけて来た。


「君、さっきこっぴどく叱られてた子だよね?」

「……そうですけど」

「ちょっと私と取引しない?決して君に損はないと思うんだけど」


 ニヤリと微笑を浮かべている彼女からは嫌な予感しかしなく、普段なら絶対に拒否しているだろう。

 しかし、先ほどから新たなセージの出現を告げる連絡が何回も繰り返され、ここがいつまでも安全かと聞かれると肯定しきれない現状、場合によっては彼女の取引に乗ることを考えなければいけない。


「取引って具体的になんですか?」

「いやぁ〜、あまり声を出して言えないことなんだけど、実は化け物が襲って来た時に部下が逃げちゃってね。さっき出撃命令が出たんだけど、部下が逃げたなんて言ったらブチギレられるのが目に見えてるから、適当な理由をつけて時間稼ぎをしてたんだよ」


 後からバレる可能性が高いのに、今怒られるのが嫌だから誤魔化しているだなんて、まるでどこかの誰かを見ているみたいだ。

 同じことを思ったのか、細石が同類を見る目で俺を見ている。

 

「それで俺たちに探してこいと?全然取引になってない気が――」

「話は最後まで聞くものだよ?そんなんじゃ彼女にも愛想を尽くされかねないからね」


 余計なお世話だ。

 第一俺に彼女なんていないし、春乃とはお互いに少し意識しているだけの――あれ?ここまでわかってるのになんで付き合ってないんだろう。そもそも俺と彼女は――


「コホン。何か真剣に考えているみたいだけど、話を進めてもいいかな?」

「……ハイ、どうぞ」

「それじゃあ、話を戻して……まぁなんやかんやあって色々考えている時に、君が大和を貸してくれって言ってるのが聞こえてね。これしかないって思いついちゃったんだよ」


 嫌な予感がする。

 ここは慎重に彼女に聞かなければいけない。

 ワンテンポ置き、彼女の口が開かれる。


「さぁ、取引だ。君たちに大和を3機貸してやろう。その代わりなんだが、君たち3人には私の部下のふりをして隊に入ってもらいたい。どうだ、悪くないだろう?」


 突拍子もない提案に驚き、返答に詰まってしまう。

 確かに願ってもない提案だが、懸念が二つほどある。


「ん?何をそんなに不安そうにしているんだい?責任なら後でどうにかなるし、バレないようにすれば問題ない。なんなら手柄を上げればそこまでキツいお咎めもないだろう」


 たしかに、と細石が呟くのが聞こえた。

 これは俺も考えている懸念点のうちの一つだが、たしかにどうにかしようと思えば大丈夫な気もする。

 問題はもう一つの方だ。


「あの、大方それで大丈夫なんですけど、一つだけ飲めない提案があります」

「ほぅ、なんだい?」

「春乃……彼女は単独で乗せられません。なので俺の方に乗せてもいいなら、この取引を飲みます」


 細石は俺とずっとゲームをしていただけに、そこまでの心配はないが、彼女は違う。


 実を言うと彼女もロボロワを一度だけやったことがある。

 やりたいとせがまれ、自信満々に俺のコントローラーを奪いとったものの、彼女は壊滅的に下手だった。

 下手したらそこら辺にいるおじいちゃん・おばあちゃんにやらせた方が上手いレベルだ。

 もし、仮に彼女がCAを操作しようものなら開始数秒で悲惨な状況になってしまうだろう。


 そんな理由が原因で、取引の内容を変えてもらおうと打診したはいいが、実のところ厳しいのではないかと感じていた。

 この提案を許可してしまえば、隊が1人足りなくなってしまうと思っていたからだ。

 彼女は少し考えていたものの、案外すぐに答えを出したようだ。


「オーケー、交渉成立だね!」


 予想と違った答えが返ってくる。


「あ、あの、春乃が俺と乗る場合、1人足りなくなるんじゃ……」

「大丈夫、大丈夫。1人ぐらいいなくたってバレないさ」


 あ、この人ダメな人だ、と気がついた時にはもう遅かった。

 頭にヘルメットを被せられたかと思うと、腕をグイグイ引っ張り、用意してある大和の方へと連れて行かれてしまった。


「声を出したらバレちゃうから、できるだけ声は出さないようにね。もしもの時は私がなんとかするから!」


 すれ違う人たちの視線が完全に怪しんでいたが、そんなことは我関せず、気がつくと俺と春乃はコックピットに押し込まれていた。

 バレないかどうかの不安でここに入れられるまでの記憶はほとんどない。

 コックピットが閉まり、安全地帯となったこの中で、とりあえず彼女を座席の後ろ側で固定する。


「なんか人質にされてるような気がするんだけど……」


 座席と一緒にロープでぐるぐる巻きにされた彼女が不安をこぼすも、安全性を確保しなければいけない以上これがベストになってしまう。


「悪いな、多少は目を瞑ってくれ」

「……わかった」


 想像していたのと違ったのか、彼女の返事からは不満そうなのが感じ取れた。

 俺もコックピットに座り準備を終えると、この部隊の隊長と思われる、先ほどの女性がモニターに映し出された。


『みんな、準備はできたかい?』

「はい。問題ありません」


『俺も多分大丈夫です』


 少し遅れて細石の返事が聞こえた。


『早くて助かるよ。それじゃあ、え〜っと、名前なんだっけ?』


 この行き当たりばったりの適当さ。

 もしかしてセージのせいではなく、彼女が原因で部下は逃げ出してしまったのではないのだろうか。


「俺は神谷廻人です。それで、今は見えないでしょうが後ろにいるのが――」

「加賀美春乃です。後でまた自己紹介させてください!」

『俺は細石です。よろしくお願いします』


 俺たちの簡単な自己紹介が終わり、次は彼女の番になろうとした時だった。

 

『君たち、出撃準備が出来たなら早くしなさい!あと一部隊出る予定なんだから、つっかえちゃうでしょうが!』


 整備士のおっちゃんが俺たちに早く出てくれと叱責する。


「自己紹介は後にして早く出た方がいいんじゃ……」

『チッ。せっかくの私の自己紹介なのに邪魔しちゃってさ。……それじゃあ君たち、私に続いて出撃してね!』


 そう言うとモニターが消え、隣にいる大和が出撃体勢に入る。


『第5小隊隊長、滝川たきがわ あい出るよ!』


 真紅の大和が戦場へと飛び立った。

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