44話 1つの方法
「もう襲撃されてるって――」
「細かい話は後だ!……というより俺もイマイチ状況を把握しきれてねぇんだよ」
――遡ること数分前。
「ここまで来ていないってことは、もしかしたら部屋に居るのか?」
食堂から道なりに春乃を探したが、彼女の姿は見つからなかった。
部屋へ向かおうと上のフロアに上がるための階段まで来た時、急に影が差し掛かった。
「ん?何が――」
振り返った先、窓の向こうにいたものは赤ん坊の外見のセージだった。
――殺される。
そう考えると同時に衝撃が俺を襲い、体が後方へと吹き飛ばされた。
「――ッ!」
状況を確認したいが、土埃が待っているせいでよく見えない。
打ち付けられた体の痛みを我慢していると、土埃が徐々に晴れていく。
現れたのはそこに居るはずのセージではなく、それにナイフを突き立てている大和だった。
「た、助かった……。」
『あ、すまん。この化け物が侵入しそうな勢いだったからな。怪我してねぇか?』
「香山中尉……ちょっと体が痛いだけで、問題ありません。急いでいるので失礼します!」
ここまでセージが来ているのは予想外だった。
香山中尉にお礼を言い、立ち去ろうとした時だった。
『ちょっと待て。お前さん、なんで俺の名前を知ってんだ?』
――ヤベッ
「いやぁ、これはその……」
何か上手い言い訳をしようとするも、急な指摘に頭が真っ白になってしまい、何も思い浮かばない。
『あれ、お前って今日神谷中佐と――』
『香山中尉、サボっていないですぐに次の所へ向かうぞ』
『――サボってるわけじゃ……はぁ、まぁいっか』
嶋田少佐らしき声に急かされ、香山中尉の大和はその場を離れていった。
「フゥ〜、危なかった。今度からはもっと気をつけるようにしねぇとな」
今後の発言には細心の注意を払おうと自省し、俺は部屋へと向かった。
――そして現在に戻る。
「ざっくり言うと、ここに向かう最中にセー……化け物と遭遇したんだよ」
「え!?カイちゃん大丈夫だったの?」
目を大きく見開いた春乃が心配そうに俺に聞いてきた。
「ちょうど大和が倒してくれたからな。この通りピンピンしてる」
「良かったぁ〜」
嘘だ。
打ち付けられた背中が死ぬほど痛い。
今にも発狂しながら転げ回りたいぐらいだ。
でも、そんなことをした日には2人からの視線は生暖かいものに変わる、そんな未来が簡単に脳内で再生できた。
「そんなことよりも、早くここから離れよう」
「それはわかってるんだが、一体どこに行くつもりだ?ここよりも安全なトコなんて中々ねぇだろ」
細石の疑問が来るのは想定していた。
俺は春乃を探しながら考えていたことを口に出そうとし、その直前に気づく。
「……やべぇ、これダメだ」
考えていた作戦はこうだ。
まず春乃を連れ、一緒にCAに乗り込む。
その後、安全な位置からセージを倒し続け、この騒動が終わるのを待つ。
どこかに隠れてもらうよりも、側にいた方が安全だと思ったからだ。
しかし、今ここには細石もいる。
コックピットにはどう頑張っても3人は入らない。
「どうしよう。詰んだ」
「詰んだ、で済ますんじゃねぇよ!」
ごめん、と怒る細石に謝罪を入れる。
何かいい案はないかと思考を張り巡らせると、施設内に追加で大量の化け物が発生したことを告げるアナウンスが流れた。
もう時間がない。
「ここに隠れてるんじゃダメなの?」
「もし学校を襲ったデカい化け物が来たらどうするんだよ」
「でも、ここなら軍人さんたちが守ってくれるんじゃない?」
春乃の疑問もわかる。
でも、セージが地下を掘り進み、尚且つなんらかの方法で発見されにくくなっていることを俺は前回で学んでいる。
「ダメなんだよ。あいつらは地下を掘ってこれる以上、ここが安全だとも言い切れない」
冷静に考えればわかることだった。
セージが大穴を開けた時も、前回奇襲を受けた時も、全て地下から出てきたようだった。
おそらく今回も同じだろう。
つまり、ここが安全だと言う保証はどこにもない。
ここで待っていて、もし仮にセージが急に出現してしまったら生身で対峙することになってしまう。
それはあまりにも現実的ではないので避けたい。
様々な方法を考え続けた結果、ある1つの方法を思いつく。
「細石、お前パイロットにならないか?」
「――へ?」
予想していなかった質問に彼は呆気に取られている。
「そ、それは願ったり叶ったりなんだが、この状況で……本気か?」
「本気だよ。昔やったろ、ロボロワ。あれと操作は対して変わんないから、お前ならできるよ」
そう、細石の実力は俺がよく知っている。
「マジか……でも、今から俺が乗る許可なんて取れねぇだろ。それに、加賀美さんはどうするんだよ」
「無許可で乗って、実力で黙らせればいい。春乃にかんしては俺のCAに乗せるから大丈夫だ」
面白そう、春乃が後ろでつぶやいている。
そんな彼女とは違い、細石は勝手にCAに乗ることに乗り気ではないみたいだ。
「大丈夫だよ。俺に全責任を擦りつけて構わねぇから」
「いや、それよりも勝手な行動で軍人になるのを拒否られる方が困るんだが……」
「俺がなんとかするから大丈夫。今はこれがベストだと思うし。……な、いいだろ!」
「……わかったよ。この一悶着が終わったら、後のことは頼むぞ」
少し呆れたような笑みを浮かべる彼と、何故か少し楽しみにしている春乃を連れ、俺たちは格納庫へと向かった。




