42話 リベンジマッチ
「あの状況で死ぬ要素なんてなかったはずだろ。……奇襲を受けて死んだとしか考えれないな」
そう考えるものの、腑に落ちない点が多く、いくら考えてもしっくりとくる答えが出てこない。
考えている間に時間は5分、10分と過ぎていく。
しばらく考えた結果、ループしてしまった以上、死んでいる事実は変わらないため、考えてもキリがない問題からもう一つの疑問の方へと頭を切り替えることに決めた。
「ここって軍事施設だよな?帰り道じゃないってことは、どこかのタイミングで上書きされたってことだよな」
目を瞑っていたせいで正確なタイミングはわからないが、春乃と接触する付近の時間に戻って来たことは確実だ。
となると今考えられる上書きされた原因は2つ。
可能性としては低いが、1つ目が時間の経過だ。
前回以上にループするまでに時間がかかったことはないため、可能性が無いというわけではない。
もう1つが春乃とのキスだ。
正味、それくらいしか思い当たる節がない。
そしてこの仮説を検証するのは簡単であり、彼女と時間を置いてキスすればいい。
恥ずかしささえ捨てられればだが……。
今が俺を呼びに来たタイミングだから、また後で試してみれば――
……ん?呼びに?……誰が?
「……やべぇ、殺される!」
彼女が俺を探しに来た理由を思い出し、全速力で部屋へと向かう。
父は待たされるのが大嫌いだ。
前回はそこまで待たせていなかったからか、機嫌を損ねていなかったが、今回は春乃と接触してから随分と時間が過ぎてしまっている。
俺は言い訳を考えながら廊下を走るのだった。
――
――――
ドアノブを握る手が震える。
心臓の音が頭の中で反響している。
もしかすると、初陣の時よりも緊張しているのかもしれない。
それもそうだ、あれは確か4、5年前――
その瞬間、勢いよくドアが開けられ、嫌な記憶が蘇りつつあった俺の顔面に直撃した。
「ん?すまなかっ――なんだ、カイか。人を待たせているからそんなことになるんだぞ」
「待たせたのは悪いと思ってるけど、ドアをぶち当てた件については少しぐらい悪びれてくれよ……」
「そこまで元気そうなら大丈夫だろう。ほら、うずくまってないでさっさと練習場に行くぞ」
顔を抑えている俺の横を何もなかったかのように通り過ぎていく。
「後で絶対に吠え面かかせてやる……」
「む?何か言ったか?」
「い、いや、何も!ハハ……ハハッ……」
自分が待たせたことを棚に上げ、俺は前を歩く背中にそっと復讐を誓った。
――
――――
パイロットスーツに着替え、格納庫へとやって来た俺は早速大和に乗り込み、練習場へ飛び出して行った。
父へのちょっとした復讐心があるのも事実だが、それ以上に余計な時間を増やしてしまうのは悪手だと考えたからだ。
しばらくすると父の乗る大和が遅れて出て来た。
『カイ、聞こえるか?』
「あぁ……じゃなくて、はい!」
『よし、じゃあ早速始めようか』
色々あったせいか、父とこう対峙したことが大分昔のように思える。
『行くぞ』
そう言うと同時に、父の大和が一気に距離を詰めてくる。
まずは前回と同じように交わしながら隙を見つけようと考えいたが、直前まで乗っていたイーグルのせいで距離を見誤ってしまい、右腕に一撃を受けてしまった。
「やべ……」
『ほら、どうした?お前の実力はそんなものなのか?』
「――んなわけッ」
初撃を受けてしまったものの、徐々に父の動きに適応し始める。実践を経たからか、以前よりも動きに余裕が生まれている気がする。
『なかなかやるじゃないか』
「まだまだこんなもんじゃねぇよ!」
両者のギアが一段上がった。
互いに適度に加速を入れながら、刀身と刀身をぶつけ合う。
何度か鍔迫り合いをした後、俺はわざと体勢が崩れたフリをすると、勝機と見た父は前回と同じよう勝負を決めに来た。
振り上げられた刀を振り下ろそうとした瞬間、スラスターを最大限活かし、相手の背後に自分の機体を回り込ませる。
「チェックだな!」
『甘い!』
追い詰められた大和のバックパックが開き、銃を装備した副腕が飛び出してくる。
「やっぱりな。そうくると思ったから、チェックって言ったんだよ!」
『何っ!?』
俺はこのために装備していた大太刀を引き抜き、副腕を全て薙ぎ払うと、勝ちを確信していた父の機体に刀を突きつける。
「これでチェックメイトだな」
『……まさか、俺が負けるとはな。カイ、見事だ』
「上手くいって良かったよ。でも最後のアレは卑怯だろ」
『戦場では何が起こるかわからんからな』
「絶対そう言うと思ったよ」
格納庫に大和を戻しコックピットから降りると、2人の戦いを見ていた人達から前回よりも盛大な賛辞が浴びせられた。
奥の方に伊田大佐が見えた気がしたが、大勢が群がって来たことで彼の姿は早々に見えなくなってしまった。
沢山の賞賛を受けニヤついている中、横を通った父がボソッと「次は本気で相手をしてやろう」と呟いて来たので、何か軽い挑発をしてみようかと後ろを振り返ると、群衆の中からまたもや余計な一言が発せられた。
「今の神谷中佐なら俺らでも勝てるんじゃないか?」
まずい、と思ったその時、父の歩みが止まった。
しかし、振り向いた顔に怒りはなく、口元は笑ってさえいた。
そう、口元だけは。
眼は真剣そのもので、怒りというよりもそれを超越した虚無を感じさせる瞳をしていた。
お祭りムードだったその場が一瞬にして凍りつく。
「本日の訓練は全て実践練習とする。俺が相手をしてやるから、全員まとめてかかってくるといい」
そう言い放つと父はこの場を去って行った。
その後の練習では悲鳴が飛び交ったのは言うまでもない。
私生活がとても忙しくなってしまい、次回の更新から週に1回の更新に変更させていただきます。
いつも読んでいただいている方には申し訳ありませんが、一話自体の文字数は増やしますので、何卒ご了承くださいませ。




