一章 3話 分かれ道
「じゃあまた明日な」
「うんっ。明日カイちゃんちの前でね〜」
明日の約束をし、分かれ道を進む。
――明日は早いし帰ったら早めに風呂に……
ドン。
瞬間、突き上げるような揺れが俺たちを襲った。
「きゃあぁぁぁぁあああ」
「……!春乃!」
背後から聞こえた叫び声の方にとっさに駆け出した。
「しゃがんで小さくなれ!早く!」
そう命令すると春乃はすぐにしゃがんだ。俺は持っていたカバンで彼女の頭を隠した。
「まだ揺れるのかっ……」
「怖い、怖いよぉ……」
「大丈夫だから落ち着けっ。すぐ揺れもおさまるはずだから」
「うっ……うっ……」
待てど待てども揺れは一向におさまらない。
――どれくらいだっただろうか。
揺れがおさまる頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
「春乃、大丈夫か?怪我はないか?」
「……うっ。大丈夫……。もう揺れない……?」
「わからない。もうここまでの揺れはないと思いたいけど100パーじゃない。とにかく、津波の危険性もあるし一度学校へ避難しよう」
そう言い、俺と春乃は駆け出した。
学校へ着くとそこには大勢の避難者たちで溢れかえっていた。走っている時から思っていたが、この大人数がこの辺り唯一の避難所である学校へ集まっても全員が入る場所はあるのだろうか。
そんな考えは杞憂に終わり、スムーズに避難者への案内が進む。
不安になっている俺と、未だ揺れへの恐怖で呆然としている春乃の背後から声がかかる。
「よかった!君たちも無事だったのね!」
そう声をかけてきたのは俺たちの担任である千代先生だった。
「神谷先生、君のお父さんが突然避難者の受け入れ準備をしろ、だなんて言うから焦っちゃったけど、まさかこんなことになるなんてね……」
「父さんが……!?で、今どこにいるんですか!」
「それが支持をしたと思ったらどこかへ電話した後慌てて出て行っちゃったのよ」
「まさか、さっきの電話は……」
少し前の帰り道、俺の電話にかかってきたのは父からだったのかもしれない。
――クソっ。あの時ちゃんと出ていればっ。
後悔をしていてもどうしようもない。ひとまずこの話に区切りをつけ、俺たちは先生に案内されるまま教室へ向かった。先生曰く、生徒は手伝ってもらうこともあるから同じ教室へ避難させているらしい。
教室のドアを開けると、そこには様々な学年の生徒がすでに避難してきていた。友人の顔もところどころにいることが確認でき、ホッと少し安心できた気がした。
「2人とも大丈夫か?」
そう声をかけたのは後からやってきた同じクラスの細石だった。
「俺たちは大丈夫だ。ちょっと春乃の様子が心配だけど怪我はしてない。細石こそ大丈夫か?」
「俺も大丈夫だ。っと、他のやつらもちらほらいるな。それにしても震源地がここからそう遠くないところだなんてついてないよなぁ」
「そうなのか?まだ避難してきたばっかで詳しい状況がわからないんだよ」
「俺がさっき調べた情報だと、
1.発生源はここから数キロ離れた場所
2.津波の心配は特に必要ない
後これはデマかもしれないけどプレートが動いた形跡はないらしいんだ。流石にデマだと思うけどね、ホント」
「確かに現実味がないけど、俺の父親が地震が来る前に避難等の支持をしていたみたいなんだ。」
「はぇ〜。超能力者か何かだっけ、お前の親父さん」
「至って普通の軍人兼教師だよ。…………」
その時、俺は最悪なシナリオを想定してしまった。
もし、仮にこれが地震ではなく、どこかの国から攻撃されたものなら……。あるいは隣町にある軍事施設が関係しているとしたら……。
そう口に出そうとして咄嗟に飲み込む。
ただでさえパニック状態になりつつあるのに、確証もなく口に出してはいけない、そう思ったからだ。
それから少し話をし、俺達は各自体を休ませようと教室の空いてるスペースに座り込んだ。
この間ずっと春乃は俺のすそを摘んでいた。
――普段そんなことしないのに、なんだが胸がチクチクするな。……まさか恋!?……………………なわけないな。
この日学校は避難者の誘導で手一杯になり、特に生徒が手伝うようなこともなく就寝時間を迎えた。
明日になったらまた元通りの生活に戻れるのだろうか。そういった不安を胸に俺も眠ることに決めた。