37話 秘密
時計の針が12時を指すまでもう5分もない。
緊張からか、レバーを握る手には汗を感じ、目を瞑れば心臓の鼓動が段々と早くなっていく音が頭の中に響く。
そんな俺に気がついたのか、第0小隊のみんなから様々なエールが送られるも、呼吸音や他の雑音のせいであまり頭に入ってこない。
当たり障りのないような返答をしているが、自分の言葉ですら、何と発しているのか理解できていない。
しばらくそんな状況が続き、12時になった瞬間、コックピット内の照明が下がり、一条司令の姿がモニターに映し出された。
『只今、時刻は正午を回った。諸君には――』
一条司令の演説が始まったものの、やはり内容が頭に入ってこない。
すると、急にモニターに映っていた映像が消え、コックピット内は一気に黒く染められる。
何か緊急事態が起きたのかと思い、伊田大佐に通信を繋げようとしたところで、先に彼から通信が入った。
『神谷二等兵』
「伊田大佐!何か緊急事態が――」
『いや、さっきまで大分緊張してたみたいだったからね。初陣で緊急するなって方が無理だと思うけど』
自分では必死に平常心を取り繕っていたが、やはりバレバレだったか。
「すみません。集中出来ていませんでした」
『気にするな。……というより、そんなことを言いにきただけじゃないんだ』
「……え?俺に注意しにきたんじゃ――」
『気にするなと言っただろ。それより、あの演説を聞くよりも遥かに君のためになるものを見てもらおうと思ってね。いま送るからちょっと待ってくれ』
――俺のためになるもの?ひょっとすると父からの激励とか、佐倉大尉とかからか?
しばらく待つと、モニターにノイズ画面が映し出された。
『よし、これでオーケー……じゃあ見終わったら第0小隊の通信に入ってきてくれ』
「え、でも画面が――」
画面にノイズが、と伝える前に通信を切断されてしまった。
もう一度通信を繋げようか迷っていると、ノイズが晴れ、自分のよく知る人物がモニターに映し出された。
『カイちゃん、見えてる?』
「春乃!?」
『あ、これ録画だった。……コホン、何から話せば……あ!私、今めちゃくちゃ怒ってるんだからね。急に決まったみたいだからしょうがないんだろうけど……』
彼女は真剣な眼差しで話を続ける。
『あんまり長く撮れないみたいだから手っ取り早く言わせてもらうね。まず、細石くんが怒ってたよ。次会ったらぶん殴るってさ』
――そんな理不尽な。急に決まったんだから殴られる筋合いはないだろ。
『あと、佐倉さんがありがとうって言ってた。もし、カイちゃんに何かあったら、私が悲しむから無茶しすぎないでって』
――佐倉大尉。俺に話したことで少しでも楽になってくれれば……
『最後に、これは私から……え、後5秒!?カ、カイちゃん絶対死なないで!死んだら秘密にしてた昔の――』
「お、おい!秘密にしてた何だよ!?こんなところでお預けたなんてあんまりだろ!」
俺の秘密が何なのか、正直心当たりが多すぎてどのことだかわからないが、春乃が知っている秘密を吐かせるまでは絶対に死ねない。
とんでもない伝言を聞いたものの、当分聞くことはないと思っていた彼女の声を聞き、つい先ほどまであった緊張はだいぶ和らいでいた。
新たに死ねない理由ができた俺は、第0小隊のみんなが待つ通信へと入って行った。




