31話 マウント合戦
「と……父さん。いつからそこに……」
「つい今し方来たところだ。それと、父さんじゃなく神谷中佐だ。言葉遣いをもっと気をつけろ」
父と細石を接触させたくなかった。
一般市民である細石を、簡単に軍に入れるということは考えにくいが、俺よりも芯がしっかりとしている分可能性がゼロとは限らない。
「神谷先生……いえ、神谷中佐、手前勝手で恐縮ですが折り入ってお願い事がございます」
「君は廻人の友達の細石君だね。まだ廻人と違って一般市民なのだからそこまで畏まらなくても問題はないぞ」
そう言うと父は、俺と細石の会話が聞こえていなかったからか、彼の頼み事を尋ねる。
「細石君、君のお願いを聞こう。……廻人を軍人にするな、という願いなら聞き入れかねるがね」
「違います。俺もパイロットになりたいんです」
「――!」
想像とは違った申し入れを受け一瞬驚いていたものの、ただ黙ったまま細石を見つめる。
父に拒否するよう言いたいが、この雰囲気がそれを許さない。
「……理由を聞かせてくれるか?」
「俺は廻人君を親友だと思っています。その親友が覚悟を決めて戦おうとしているのに、後ろでただ助けを待ってるだなんて出来ません」
ふっ、と父が微笑する。
「何かおかしな点がありましたか?」
馬鹿にされたか軽くあしらわれたと思ったのか、細石の発する声のトーンが少し低くなる。
「いや、失敬。君の覚悟はわかった。しかし、廻人を息子だからと軍に入れたわけではないんだ。昔、廻人が熱中していたゲームの操作を元にしているから抜擢したんだ」
「――!それってもしかしてロボロワですよね。俺もずっと一緒にやってましたよ」
「ほぅ……!」
「廻人より上手いと思いますよ」
マウントを取られた俺はすかさず訂正を入れたものの、父に黙っていろと圧をかけられてしまった。
「……」
「やはりこんな理由ではダメでしょうか……?」
顎に手を当てながら父は何かを考え続けている。
目を逸らしたくなった俺とは違い、細石は父をじっと見つめている。
長考の末、父が言葉を発する。
「細石君、君の考えはよくわかった。ただ、実力もはっきりとわからない者、ましてや一般市民である者をそう易々と軍に入れるわけにはいかない。それはわかるね?」
「……はい」
願いが届かず俯いてしまう彼に、父は続けて話かける。
「とはいえ、君の覚悟を無碍にしたくはない。明日、ここの練習場にて君の能力が適正化どうか判断しよう」
ダメかと思われた細石と、このまま安全な場所にいて欲しい俺は、2人して目を大きく見開いた。
「父さ……神谷中佐、いいんですか、そんな勝手な――」
「ありがとうございます!必ず、期待に応えて見せます」
父は俺と細石を交互に見た後、口角をほんの少しだけ上げた。
「カイ、いい友達を持ったな」
それだけ残すと父は廊下の先へ姿を消してしまった。
それを見送った俺たちはしばらく無言が続いたが、視線があった瞬間何故かニヤけてしまった。
「残念だったな、明日から俺も軍人だぜ?」
「ほんとは安全なとこにいてほしいんだけど、もう遅いか。どうせお前は明日受かっちゃうよな。……これからよろしくな、細石!」
「昔みたいに2人でやってやろうぜ、カイ!……でも俺の方が上手いからな」
「はぁ!?俺の方が上手かっただろ」
2人のマウント合戦は、春乃が食事を持ってくるまで繰り広げられた。




