28話 不注意
シャワーを浴び終えた時にはすでに8時を過ぎてしまっていた。
駆け足で部屋へ向かっていると、曲がり角から春乃が飛び出してきた。
お互いに急いでいた事もあり、避けることがでない。
「――!」
「――!?」
減速する事もできず、そのままの勢いで衝突してしまう。
「――んむっ!?」
「――んっ!?」
なんとお互いの唇同士が重なってしまった。
上に乗ってしまっていた俺はすぐに立ち上がり、混乱している頭で必死に言い訳を構築している。
対して彼女は上体を起こし、大きく目を見開いてこちらを見つめている。
「す、すまん、春乃。父さんとの約束の時間に遅れてて……そ、それで急いでて……」
「へ……あれ、私……」
こちらを見つめたまま固まってしまっていた彼女は、やっと、2人に何が起きたのかを理解出来たみたいだ。
それと同時に顔がみるみると真っ赤に変わっていく。
「あ、あのね。ついさっき、カ、カイちゃんのお父さんが部屋に来て、そ、それで」
「あ、あぁ、呼びに来てくれたのか」
「そ、そうなの!じゃ、じゃあ私は用事を思い出したから――」
そう言うと彼女は全速力で廊下を走って行ってしまった。
突然のハプニングでまだ、頭がきちんと働いていない。
心臓も凄い勢いで鼓動している。
――ヤバい、ヤバいヤバいヤバい。まさか人生初のキスがこんな状況で……。
彼女とキスすることができたが、その初キスはお世辞にも良い雰囲気とは言えない終わり方をしてしまい、嬉しい気持ちと残念な気持ちが自分の中を巡る。
チラッと、施設に設置されている時計が視界に入ったことで、先程まで急いでいた理由を思い出す。
初キスの件に関しては一度保留にし、父さんが待つ部屋へと向かうことにした。
部屋へと戻って来ると、俺を待っていた父の表情は険しいものになっていた。
「約束の時間は過ぎてるぞ」
「ごめん、父さん。ちょっと色々あって……」
「ん……?お前、加賀美さんとは合わなかったか?時間になっても来ないからお前を探しに行ってもらったんだが」
「あっ……あぁ、さっきそこで会ったよ。な、なんか予定があるって何処かに行っちゃったけど……」
さっきの出来事が脳内にフラッシュバックしてしまい、言葉をつっかえてしまう。
「そうか。じゃあ早速練習場に行こうか」
「お、おう!」
「返事は"はい"だ。お前は俺と同じ隊に入ってもらうつもりでいるから、舐めた態度を取るなよ」
「――!?は、はい……」
「返事が小さい!」
「はいっ!」
そして、この日から俺のパイロットとしての日常が始まるのだった。




