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27話 なすべきこと

「佐倉大尉……」

「――!廻人君……なんでここに……?」


 泣き顔を見られたくないのか、頬を流れている涙を袖で拭う。

 

「シャワー室に向かってる途中でたまたま声が聞こえたのでつい……。それよりも……」


 視線が腕の方を向いているのがわかったのか、佐倉大尉は自分の首元まで羽織るように掛け布団で覆い隠した。


「ごめんね、変なの見せちゃって……」

「いえ、こちらこそ配慮が足りず申し訳ありません」


 重い空気が漂い始める。

 黙ったまま俯いている彼女になんて声をかけるべきなのかわからず、視線がさまざまな方向に泳いでしまっている。

 長い沈黙を破ったのは佐倉大尉だった。


「……今、少し時間……ある?」


 約束の8時まで約30分、シャワーを早く済ませることができれば、多少ここで時間を時間を使っても大丈夫だろう。


「はい」

「ありがとう……」


 少しの沈黙の後、彼女は昨日起きたことについて語り始める。


「昨日、敵の出現が知らされたじゃない?あの知らせの後すぐに神谷中佐のところに向かって、あらかじめ決められていた編隊を組んで出撃したの。前回、前々回と同じように倒せば、敵の数が多くてもなんとかなると思ってた。でも、その考えは甘かった――」


 一呼吸置き、さらに話し続ける。


「敵を倒し続けていると、急に敵が今までと違った行動をとり始めたの。この国って平和だったじゃない?だから想定外の出来事に対して、立て直すのにかなり時間がかったんだ……」

「実践慣れしていなかった……と言うことですか?」

「その通り。1人がパニックになり始めると、それがすぐに周りに伝播していく。それを立て直すのが私の役割だったんだけど……出来なかった……。最初に私の友達が敵にやられて、その悲鳴が耳から離れなくて……頭も真っ白になって……それで……」


 彼女の声が震え始め、目からは再び涙が溢れ始めた。


「他の隊が助けに来てくれた時には……もう、私しか残ってなくて……。助けに来てくれた時もすぐに動くことができなかった。下から敵が出てくるなんて思ってもなかった。そのせいで、助けに来てくれた隊も半分以上が……。死んだのが私1人だったら……」


 彼女は嗚咽を漏らしながら泣き続ける。

 大丈夫、佐倉大尉のせいじゃない、そう言うのは簡単だが、彼女の心情を考えると、絶対にその言葉を今かけるべきではない。

 

「私ね、昔の大地震の時に駆けつけてくれた、外国のCAに助けられたんだ。だから大きくなったら私も、世界中で人助けを出来るパイロットになろうってずっと口にしてた。やっとここまで来れたのに、もう……この腕じゃ……」

「……」


 何も口に出すことができず、ただ黙って彼女の泣き声を聞いているしかできない。

 しばらく泣いていた彼女は、少し気持ちが落ち着いたのか、時間を取ってしまったことを詫びつつ、話を聞いてくれたことに対してお礼を伝えてくる。

 気の利いたことを何も言えなかった俺は、申し訳なさを感じつつ保健室を後にしようとする。

 扉を閉めようと手をかけた俺に、佐倉大尉が一言、声をかける。


「廻人君、君は後悔しないようにね。今なすべきことを頑張るんだよ」

「はい。嫌な記憶を掘り返させてしまい申し訳ありませんでした」


 そういって俺は保健室を後にする。

 ――なすべきこと、か。

 彼女の言葉を噛み締め、少しだらけかけていた自分の気を今一度引き締め直した。

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