一章 1話 持ち主
「ふぅ……」
さすがに反省文10枚はしんどいな。
気がつけば、やかましかった春乃の姿は見えなくなっていた。
「あいつ、一体どこに行ったんだ?途中から完全に飽きてたし、先に帰ったのか?」
ふと窓を見ると、空はすでに茜色になりつつあった。
反省文を提出し、早く家に帰ろうとすると、校門の前には先に帰ったと思われていた幼馴染が待っていた。
「お前、先に帰ったんじゃなかったのか」
「カイちゃんが遅いからちょっと図書室で時間潰してたんだ〜。ちょうど来たところだったからすれ違いにならなくてよかったよ〜」
「誰のせいで遅くなったと思うんだ。暇だからしりとりしようだの、どうでもいい話題だの振ってきたせいだろ!」
「……あれぇ、そうだっけ?ごめんごめん」
――はぁ、思えば昔からこんな感じか。
「そうだ。今日はフリマやってるはずだから帰りにちょっと寄ろうよ!」
「えぇ……もう疲れたから早く帰って休みたいんだが……」
「いいじゃん、いいじゃん。待たせたお詫びだと思ってさぁ」
「だから、誰のせいで……わかった、わかったよ!ちょっとだけだからな!」
「やったー、カイちゃんの奢りだ!」
――どうして俺が奢る前提になってるんだ。
確かに待っててもらった事実はあるから多少は目を瞑るか。
そうして俺たちは近くの商店街でやっているフリマにやってきた。
「やっぱり賑わってるね〜」
「ちょっと前にレアなお宝を知らないで出品してて話題になったからな。そんな毎回出てくるわけじゃないのに」
「あれ凄かったよねぇ〜。全国ニュースにもなっちゃってさ」
そんなことを話しながら並んでいる物を眺めて歩いていると、春乃がアクセサリーが並んでいる前で止まった。
「ねぇ、これ綺麗じゃない?値段も安いしどうしようかな〜」
「これが気に入ったのか?」
俺は彼女が見ていた銀の枠に赤い宝石のようなものがはめられているネックレスを手に取った。
それは他のネックレスと比べると一段、二段と見劣りするものだった。宝石部分がくすんだ色をしているのが原因なのかもしれない。
長考の末彼女は買うのをやめ、お手洗いに行ってくると離れたので、代わりに買ってやることにした。
「じいさん、これをくれ」
――たまにはプレゼントしてやってもいいか。
そう思い俺は財布を出した。
「さっきの子は彼女なのかい?」
「いや、ただの幼馴染というか腐れ縁です。」
「そうか、そうか。このネックレスにはレッドサファイアが埋め込まれていてねぇ。大切な人に渡すといいことがあるとされているんだ」
「てことは本物の宝石なんですか!?それをこんなワンコインで?」
たしかに見劣りするとはいえ、それが本物の宝石なら話は別だ。
「そう、これは本物の宝石。でも、他の商品よりも見劣りするこれを欲しいと思う人はほとんどいない。というより0だね」
「……」
俺は呆気に取られ何も発せずにいると、じいさんは語り始めた。
「私の妻も君の彼女さんと似た状況でこれを見つけたんだ。私も彼女がいないタイミングで買い、プレゼントした。色々と苦労したがこれのおかげで幸せな時間を過ごせた」
「そんな大切なものを手放していいんですか?」
「もう妻は天寿をまっとうしたからねぇ。ワシも長くはないだろうし、どうせなら新しい持ち主に大切にして欲しいからねぇ」
「すみません。不躾なことを聞いてしまって……」
「いいんだよ。それに私はこのネックレスが持ち主を選ぶんじゃないかと思っていてねぇ。君の彼女さんなら大切にしてくれそうだし……」
そう言うとじいさんは俺にネックレスを渡した。
お代を出そうと財布を開けると、じいさんはお代は結構、長々と話を聞いてもらったお礼にあげる、と頑なにお金を受け取ろうとしなかった。
申し訳なさそうに、お礼を言い立ち去ろうとする俺に の背中にボソッとじいさんが発した。
「頑張るんだよ。どんなに辛くても諦めちゃいけないからね」
「……?」
「なに、年寄りの戯言だと思って気にしなさんな。」
何を言おうとしているのか全くわからない。疑問に思ったまま、再びお礼を言い遠くから近づいてくる春乃のもとに向かった。