18話 私が倒してしまっても構わんのだろう
「うっ…………」
気絶していたせいか、腕が降ってきた後のことを覚えていない。
――あの赤子の化け物はどうなった?
周りがどうなっているのか、なんなら自分がどうなっているのかも分からない。
ボヤけていた視界が元に戻ってくる。
すぐに起きなければ、と思い立ちあがろうとするも、全身を回る痛みに耐えきれず体勢を崩してしまう。
「確認……しないと。……あの……赤子の化け物……だけは……」
激痛を堪え、地を這う。
やっとの思いで腕が振り下ろされた場所に来ると、陥没した地面の中に赤子の化け物の死体があった。
ミンチのようになっているので復活することはないだろう、と考え一息つく。
「やった……。やり直しも考えてたのに、一発で……。でも、もう動けそうにねぇな。」
あの腕が振り下ろされたときの衝撃で、体を強く打ち付けられたらしい。おそらく骨も何本も折れてしまっている。
「はは……、まぁ、一発目にしちゃあ上出来だったな……」
崩れた屋根を見上げれば、巨腕の化け物がこちらを覗いている。
俺が生きていることを確認し、再び腕を振り上げる。
「ここまでか……」
もうすぐまた見慣れた帰り道がやってくる。
「春乃、俺はすぐに次のループが始まる。でも、俺がいなくなったこの世界でも、お前には生きていてほしい。爆弾も残ってるし、赤子の化け物も倒した。後は、少しでも……」
目を瞑れば彼女のことが思い浮かぶ。
心配で心配でたまらない。
出来ることならそばで守ってやりたいが、この世界ではもう叶わない。
それでも未練がましくこの世界のこと、春乃のことを考えていると、聞き慣れた声が耳に入ってきた。
「カイちゃん!」
校舎の方を見ると、春乃が走ってこちらへ向かってきていた。
「春乃!?何で来た、速く逃げろ!」
「無理だよ……。さっきはカイちゃんの迫力に気圧されちゃったけど、やっぱり先に逃げてるなんてできない!」
そう言うと彼女は持っていた爆弾のピンを外す。
「ここからどうすればいいの?」
「バカ!早く投げろ!死んじまうぞ!」
こんな時でも彼女はアホだ。使い方もわからないまま、とりあえずピンを抜くなんて自殺行為すぎる。
「え、えいっ」
彼女の手から離れた爆弾は、それはもう見事な放物線を描き、化け物の近くに落ちる。
ドンッという爆発と共に衝撃がやってくる。
意識外からの攻撃に戸惑ったのか、巨腕の化け物は振りかぶっていた腕を下ろし、こちらから距離を取り始めた。
「やったぁ、当たったよ!」
「運動神経鈍いくせによくあそこに投げれたな……」
「えっへん。私天才だから」
調子に乗り始めたのか、あの化け物も倒してみせるね、と言い始め他の爆弾もピンを抜き、次々と投げ始める。
「お、おい。バカ!何やってん――」
投げられた爆弾は巨腕の化け物とは離れたところに転がり爆発してしまった。
「あ……ヤバ……」
「バカやろう!何で調子に乗って全部使っちまったんだ!」
激痛が走るのを堪え、彼女の頭をぶん殴る。
「いっったぁああ!何すん――」
「これぐらいされて当然だ!」
「ブー、ブー」
「何だ、豚か?」
「ブーイングだよ!」
――こんなことしてる場合じゃねぇ!
今置かれている状況を思い出し、春乃の手を借りようとしたが、油断しているうちに巨腕の化け物が今にも腕を振り下ろそうとしていた。
「あ、これ終わった……」
彼女のバカさ加減によって生まれたこの空気感。
――どうせ死ぬなら、さっきのシリアス具合のまま死にたかったよ……。
2人して微妙な空気を感じつつ、迫ってくる死を受け入れようとしていた。




