17話 安い命
――ここに来たのはあの化け物だけじゃなかったのか。
予想していなかった状況に2人して固まってしまう。
その固まっている状態を動かしたのは、後ろで鳴り響いた音だ。
まるで花火が爆発した時のような音。しかし現実はそんな優しいものではない。
少し後ろの外廊下に振り下ろされた腕が、建物を、地面を破壊したために鳴ったものだ。
幸い、目の前にいる化け物が様子を窺っているのが良かった。
もし、目と目が合った時にすぐ襲われていたなら、すでに次のループに入っていただろう。
かと言って状況は最悪だ。
進めば化け物、引いても化け物。
迷っている暇はなく、現実的に考えるならば、前の化け物を倒すなり足止めするなりするしかない。
俺は春乃に指示を出す。
「いいか、俺があの化け物を押さえつける。お前はその間に走って校舎へ迎え」
「……!そんなのダメ――」
反対されるのは分かっていた。
かと言って言い合っている時間もないため、指示を出し終えると同時に動き始める。
後ろで何か言っているが、振り返りはしない。
意外にも赤子の化け物は非力だった。
動きが多少俊敏とはいえ、簡単なフェイントに引っかかって捕えられている。
「今だ、春乃。行け!」
そう指示をすると彼女は涙目で走り始めた。
校舎へ辿り着いた彼女がこちらを見て叫ぶ。
「すぐに何か武器になるものを――」
「大丈夫だ!俺に考えがあるから、お前は1番奥の技術室へ行ってろ!」
そう、1つだけ案が浮かんでいる。あの腕が振り下ろされる瞬間までこの赤子の化け物を押さえつけ、潰させる。
どうせ死んだらループするのだから、俺の命くらい安い。
――彼女が死んでしまうくらいなら、こんな命、何度でもくれてやる。
そう決意した俺のすぐ側に腕が降ってきた。
その衝撃で赤子の化け物を逃しそうになったが、なんとか組み伏せている。
「もう次だ……。大丈夫、死んでもループするだけ。そう、ループするだけ……。」
昂ってきた心臓を洗脳に近い何かで無理矢理落ち着かせる。
そんなことで落ち着くわけもなく、むしろ鼓動が速くなっている。
「頼む、春乃、俺に勇気を……」
そう呟いた時、頭上の屋根からミシッ、と音が鳴った気がした。
「ここだ!」
そう言って俺は赤子の化け物から転がるように距離を取ろうとする。
瞬間、屋根を破り、俺を殺さんとする腕が振り下ろされた。




