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第7話 義妹にコスプレを頼まれたので、仕方なく付き合ってあげた②

「お兄と一緒にコスプレするの、ちょっと憧れてたから」


 その言葉を聞いて、俺の心が少し揺れた。


「……今回だけだからな」


「本当!? やった!」


 莉乃が嬉しそうに跳び上がった。


「あ、そうだ。この際だし、お兄のアカウントも作る? 私から導線繋げば一万人くらいはすぐにフォロワーつくと思うけど」


「いや、俺はそういうのはいいよ」


「えー、もったいない。お兄、絶対映えるのに!」


「俺はそこまで承認欲求ないんでね」


「ふーん。まあ、嫌なら無理にとは言わないけど……」


 莉乃が少し残念そうな顔をする。


「でも、写真は撮らせてもらうし、ネットにあげるからね」


「へいへい……。てか、知らねえ男乗せるなって炎上しても責任取らないからな」


「わかってるって。大体、彼氏ってわけじゃないしヘーキ。それに、カンフル剤が欲しかったところでもあるんだよね。お兄出して、ブラコンキャラで更に認知広げられたらラッキーじゃん?」


「ブラコンキャラ? お前もうブラコンじゃん」


「は、はあ? お兄、ほんと意味わかんない。私がブラコンなわけないから。お兄はシスコンだと思うけど! 変なこと言わないでよね。とにかくちょっとリビングで待ってて。準備してくるから」


 莉乃は顔を真っ赤にして、洗面所を飛び出していく。その後ろ姿を見ながら、俺は複雑な気持ちだった。


 正直、コスプレには抵抗がある。でも、莉乃があんなに嬉しそうにしてくれるなら……。


 しばらくして、莉乃が大量の衣装を抱えてリビングにやってきた。


「はい、これがお兄の衣装ね!」


 紺色のブレザーにネクタイ、ちょっと変わったデザインのシャツ。確かによくできている。


「すげーな、これ全部手作りか?」


「一部はね。でも、最近はコスプレ衣装も通販で買えるから」


「金、結構かかるだろ」


「だから言ったでしょ? 私、お父さんより稼いでるって」


 莉乃がにっこり笑う。インフルエンサー、怖え。


「まず、ウィッグから合わせよ」


 莉乃が銀髪のウィッグを取り出す。

 莉乃が慣れた手つきで俺の頭にウィッグを被せていく。


「ちょっと前髪のバランスを……はい、完璧!」


「うわ、なんか変な感じ」


 鏡を見ると、違和感がすごい。


「変じゃないよ! すっごいかっこいい! やっぱお兄、造形いいな……っ」


 莉乃が興奮気味に言う。


「次は衣装ね。着替えてきて」


「あ、ああ……」


 俺は衣装を持って、洗面所で着替えた。

 鏡の中の自分は、確かにアニメキャラのようだった。でも、思ってたより悪くない。


「お兄、できた?」


「まあ、一応」


 部屋に戻ると、莉乃も既に衣装に着替えていた。

 薄いピンクの髪のウィッグに、女子用の魔法学園制服。でも、なんというか、まだ未完成という感じだった。


「じゃ、お兄もちょっと化粧しよ」


「化粧?」


「撮影するんだから、ベースメイクくらいして当然でしょ」


「その常識は知らないですけど……」


「大丈夫、そんな時間かかんないから」


 莉乃が俺の顔にファンデーションを塗り始める。慣れた手つきで、あっという間に俺の肌が整えられていく。


「はい、お兄は完成! で、悪いんだけど、あと二時間くらい待っててもらえる? 私はもうちょっと時間かかるから」


「この格好のまま待たせる気かよ」


「せっかくセットしたのに、着替えたらまた最初からになっちゃうじゃん」


「ならお前の準備が終わってから着替えればよかったんじゃないですかね」


「確かに……」


「おい」


「とにかくスマホでもいじって待ってて!」


 莉乃は手を振って自分の部屋に消えていった。

 俺は仕方なく、コスプレ姿のままリビングでテレビを見て時間を潰すことにした。

 銀髪のウィッグ、慣れない制服、そして化粧。鏡を見るたびに違和感しかない。でも、不思議と悪い気分ではなかった。


 二時間後、莉乃の部屋から「できたー!」という声が聞こえた。


 そして現れた莉乃を見て、俺は絶句した。

 髪型、メイク、衣装、全てが完璧にキャラクターを再現している。まさに、二次元から飛び出してきたようだった。


「……生で見ると、やっぱ莉乃はすごいな」


「まあね。言っとくけど、お兄も十分なクオリティだからね。同人誌の即売会に行っても浮かないし、なんなら写真バンバン求められるレベルだから」


 莉乃は胸を張って自信満々に言い、スマホを取り出す。


「さてと、じゃあ撮りますか」


 莉乃が俺の隣に立ち、俺の腕に軽く手を置く。


「お、俺はどうしたらいいの?」


「んー、棒立ちでいいよ」


「適当だな」


「じゃ、いくよ」


 シャッターが切られる。


「今度はもっと兄妹らしくね」


 莉乃が、後ろから抱きつくように俺の肩に手をかけてちょこんと顔を寄せてきた。


「お兄、もうちょっと優しい表情で」


「優しい表情って言われても……」


「お兄が普段通り、私をみればいいんだよ」


「それでいいのか?」


「うん、うん!」


 俺は苦笑いしながらも、莉乃の言葉に従った。

 何枚か写真を撮った後、莉乃がスマホの画面を俺に見せる。


「どう? すごくいい感じでしょ?」


「……悪くないな」


「でしょ? お兄、コスプレの才能あるよ」


 莉乃が嬉しそうに笑う。


 と、そのときだった。


 ──ピンポーン


 インターホンが鳴った。


「こんな時間に誰だろ?」


 莉乃が首をかしげる。

 俺はコスプレ姿のままモニターに向かった。

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