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9.ヘンな感じ



「会いに来てくれたの?」


「うん、急に会いたくなっちゃってさ。楓さえ嫌じゃなかったら、一緒に過ごさない?」


「あはっ、嫌なわけないよ。ちょうど見たい映画があったから、一緒に見よ」



 …ああ、そうだ



 これが、仮面を被った俺だ。 



 あいつの前では仮面を被らないから、いつもいつも調子狂うんだよな



 その調子狂うのが、気持ち悪いけど、心地悪いわけじゃないのが余計意味分からんくて



 だから、今ので良い。



 この仮面なら、否定されることはない



「えっ、もしかして、俺がこの前見たいって言ってたやつ?」


「うんっ、よく分かったねっ!」


「あっ、やっぱり!嬉しいなぁ。楽しみだよ」



 持ち前の察しの良さと洞察力で、相手の子が何を考えてるのか、何を言って欲しいのか、ずっと考えながら接してる。



 …ああ、なんでだろ



 仮面を被るのがしんどいなんて、そんなこと今まで思わなかったのに



 それが俺にとっての当たり前で、常識だった…



 …なのになんで



 なんで、あいつのことばっか…



 あぁ…、忘れろ忘れろっ、俺の頭の中から消えろ…



 今は良いんだよ、どうでも



 …なのに、映画を見てる最中、ずっとつむぎのことが頭から離れなかった。



「ねえ、薫っ。その、……ダメっ…かな…」


「あはっ、可愛いね。ダメなわけないよ」



 映画を見終えたら、楓の頬にキスを落として頭を撫でて、お決まりの行動に移す。



 気持ちいいとこ探して、見つけて、攻めて、でもちゃんと節度は守る。



 相手の人にできないように、自分だけが気持ち良くならないように、相手の顔確認しながら、優しく、快楽を感じれるように。



「大丈夫?痛くない?お水持ってくるね」


「うん、ありがとっ」



 水を持ってきたら、楓は丁寧な仕草で一口飲んで、もう1度布団の中に潜った。



「楓はいつだって可愛いね」

 

「えへへっ、薫はいつもカッコいいね。薫以上に完璧な男なんていないよ。大好きだよ、薫」



 あー、ほんと、口先だけだな



 楓よりサイズの大きいシャツに、同じブランドの2つある色の違うコップ。



 本命いるに決まってんだろう、そんなの



 分かりやすいなあほんとうに



「俺もだよ、楓」





 そんなこんなで、結局22時だ



 盛ってたなぁ…長いこと…



 ……帰るか…



 ………ん?



 帰るって、変な感じだな



 俺に帰るところなんてないのに、鍵のせいで帰る場所があるんだって勘違いしちまう



 いつもの道がやけに遠く感じるのは、珍しく帰るのを嫌だと思ってるからかもしれない



 いつもなら、なんとなく帰ったら、いい匂いがする



 俺の好きな食べ物が並んでたり、苦手なものもたまにあるけど、食べてみたら意外と美味しかったり。



 今日は、そのちょっとした楽しみすらも湧かない。



 ……まさか、この俺が、帰って来るなって言われることを、恐れてる…?



 それとも、帰る場所が無かったら怖いから……?

 




 ああ、そうか





 あいつの家を、俺は自分の居場所だとも思ってたのか



 まだ会ってそこまで経ってないのに

 まさか絆され始めてるなんて



 そこらの人より警戒心は高いはずなのに



 今では、あいつの前でだけ素を見せてるし、そんな俺のことを信じられていない自分がいる



 街灯が道標みたいになって、いつもの1人で住むには大きいマンションに着いた。



 鍵のガチャって音も、2ヶ月で当たり前になった。



 …いつもなら鍵の音がした時点でダダって走ってくる音がするのに、今日は玄関を開けてもそれがない。



 扉を開けたら、いつもは明るい廊下が出迎えるのに、これもない。



 何でだ?



 電気は?



 寝る時間はいつも日を跨いでるから、本来ならまだ電気はついてるはずだぞ…



 まさか本当に、あいつ俺に鍵と金だけ渡してこのマンション解約したのか?



 背中に変な汗が伝った。



 足早にダイニングに向かった。



 幸い、扉越しにぼんやりと明かりがついてるのは分かった。



 なんで安心してるのかは、分からない……。



 でも、この感情に、名前をつけたくなかった。



 ダイニングに続く扉を開けたら、いつもと全く違う光景が目に入った。



 四方の壁には、風船や、折り紙で作ったであろう輪っかの繋がったもの、他にも色んな形をした装飾品、そして真ん中に、【Happy Birthday】って描かれた飾り付けがされてあった。



 更にいつも食べてるテーブルの方に目をやれば、俺の好きなオムライスだったり、チキン南蛮だったり、俺の野菜嫌いも加味して味付けされたサラダがラップをされて置いてある。



 ……このため、…だったのか…?



 俺なんかの、誕生日のために…?



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