7.影と陽
「おかえりなさい!」
「…ただいま」
そんな走って玄関来なくても、子供かって
「夜ご飯、食べますか?」
「…食べる」
「分かりました!ちょっと待っててくださいね」
帰る時間同じくらいか?
エプロンはしてたけど、スーツのままだったな
まあ、座って待つか
で、手洗ってビジュ確認してダイニング行ったら、もう料理が並べてあった。
早いなおい…
「どうぞ!今日は肉じゃがです!嫌いなものはありませんか?あったら遠慮なく言ってくださいね」
「ねーよ。いただきます」
「いただきます」
肉じゃがか
いつも外食だった…ていうか、連れて行ってくれるところがフレンチ系だったから、あんま食べてなかったな
あぁ…
美味いわ。うん
めっちゃ美味い
正直外食より、つむぎの手料理の方が美味いなこれ
じゃがいもはホロホロ、にんじんもちょうどいい柔らかさで野菜の甘みがしっかりでてる。
牛肉も噛みやすくて、火も通ってる。
汁だって、しっかり味がある。
本当何でも出来るな……
「なんで俺なんだ…」
「えっ?」
あっ
ミスった
「…何でもない。忘れて」
「忘れませんよ。そうですねぇ、強いて言うなら、ヒーローだから、ですかね」
…ウソだろ、それ
なんでそうやって、可笑しそうに、楽しそうに生きていけるんだよ
側から見たら、俺の方が気楽そうに生きてるだろとは思うけどな
「そうかよ」
「あっ、怒りました?」
「怒ってねえ」
「ふふっ」
なんだ先から?
「何が楽しいんだ?」
なんでずっと、そうやって笑うんだ
俺は、そんな楽しそうに笑う方法なんか知らない
「薫さんが、素を見せてくれてるのが嬉しくて」
「はっ?」
「だって薫さん、私と会ったばかりのときはずっと笑ってましたよね?」
それはそうだ
だって、みんな優しい笑顔で自分を見てくれるやつの方が好きだろ?
だから表情をつくるのは当たり前なことだ
「でも、それだと相手に気を遣ってばかりで疲れないかなって心配だったんです。だから、こうして素直に美味しそうに食べてくれる薫さんを見られて嬉しいです」
「お前は…」
「えっ?」
「お前は、疲れないのかよ」
ああ
普通に、もし俺が、いつも外で見せてるような優しい俺だったら、こんな聞き方しないのにな
多分、『俺の前では無理しなくていいよ』って言って、腕でその子の頭包み込んで、俺に寄りかからせる
外面剥いだ俺は、何も出来ないから、嫌いなんだよ
今だって、なんで嬉しそうにこっちを見てくるのか、1つも分からん
「やっぱり、良い人ですよ、薫さん」
「ん?」
なんでそうなった?
「今まで、そういうふうに心配してくれる彼氏はいませんでしたもん。でも私、生涯笑って生きようって決めてるんです。どんな時でも」
ああ、聞かなかったら良かったかも
…俺にはちょっと、眩しすぎる
「俺とは正反対だな」
「…同じですよ」
「ハッ、どこがだよ」
俺とコイツのどこを見て同じだって言えるんだ
全てが違う
本当に、全部
「一緒です」
「っ…だから、どこがって…!」
何も考えずヘラヘラ笑ってるやつと同義にされたくねーよ
俺は…
「生きるために、笑ってますよね、薫さん」
はっ?
何だコイツ
俺の何を知ってるんだよ…
知った気に…なるなよな
「…バカらしい。そんな大層なもんじゃない。言ったろ?俺はろくでもない男なんだよ」
「良いんですよ。ろくでもない男でも、隣にいてくれるだけで。それだけで幸せですから」
…ふーん
どうせその気持ちも1週間持つか持たないかだろ
それがつむぎの幸せなら、さぞ人生は楽しそうだな
…だから、俺とは正反対だっつってんだよ
俺は、幸せがどんなものか知らねー
やってきたこと全部生きるためだったから
「分かった分かった、もういい。ごちそーさま」
「はい、お粗末様でした!」
…もう、だからなんでそんなに元気なんだって
本当に仕事して来たのかってレベルで元気なんだよなぁ…
なのにめっちゃ行儀良いの何なの
…ヤバいわ。今まで女の思ってることなんか手に取るように分かってたのに、コイツだけは分からねぇ…
◇