5.修羅場…ではなくなった
「つむぎ、ちゃん…、?」
「かおるさん、お仕事だったんじゃ?」
まさか
初めて陥るこの状況に、少しの焦りを覚えた。
なんでこんなとこに来てるんだ?
まさか、純粋なフリして本当は結構な遊び人だったりするのか?
「あー、…思ったより早く片付いてさ」
「あー?何言ってたんだ、薫。お前は、ニートクズイケメンだろうが」
ハハってカウンターから笑いながら出てきて言う、バーの店員の1人である友人に、殺意を覚えた。
目かっぴらいてそいつの方、…律の方を向いたら、やっと察したらしい。
血の気が引いてた。
「あー、…ごめん、つむぎちゃん、ちょっと待っててね」
まだ混乱中であろうつむぎちゃんを置いて、俺は律の方にズカズカと歩みを進めた。
「ッお前…何してくれてんだよ…。まだあの子は俺のこと何も知らねぇよ馬鹿か本当にお前」
結構ガチで焦ってるんだよこっちは
「ちょっ、ごめんて。僕も知らなかったんだよ。にしても、つむぎちゃんかあ。可愛い名前だね。顔も、めっちゃ美人じゃない?声かけてもいい?」
ほらっ
ほらなっ?
舐められるんだよ
俺たちみたいな男にさあ
なんで今まで獣みたいなやつらから生還出来てんだよ…
「まだダメに決まってんだろうが」
「まだ、ね。でも薫、バレちゃったじゃん」
「それはお前のせいだろうが」
「まあまあ、落ち着いてよ、薫。まだ疑問符浮かんでるからセーフじゃない?見てみてよ」
目を合わせないようにつむぎちゃんの方を振り向いたら、確かにまだ頭の上にハテナ浮かんでそうな感じはした。
いやでもこの状況じゃどんでん返しも何もないだろ
結局無理じゃねぇか
いや…もういいか
顔可愛いし料理も上手いしで、しばらく居座ろうと思ってたけど、如何せん俺は顔がいいもんで
ここに少しいれば、声をかけてくる女はいくらでもいる。
1週間しか持たなかったけど、まあいいか
カウンターの裏から出て、つむぎちゃんと向かい合った。
「あーっ…と。さて、何から話してほしい?」
「えっ?」
「俺が無職なこと?ヒモなこと?パチンコすること?競馬すること?なんなら、賭け事全般大好きなこと?ヤニカスなこと?浮気すること?家がないこと?」
……あっ、全部言ったわ
さて、怒り狂った目の前の女から何発か殴られる準備でもしとくか
…って、思ってたんだけど、それなんの表情だ?
なんか肩震わせてね?
あっ、泣いた…?
「っふふ、っあはは!」
「っ!?!?」
えっ、ん?あっ……えっ………?
いやいや、何?この子
普通泣くか怒るかじゃないの?
笑うの?
なんかツボに入ったらしく、しばらくお腹押さえて顔下に向けて笑ってた。
ひとしきり笑い終えたら、俺の目を真っ直ぐ見てきた。
なんで俺の目見れんだよ
前と変わらずに、その眩しい目で…
女が俺を嫌いになりそうなこと全部言ったつもりなんだけど…?
「そんなことで、私が好きじゃなくなると思ってたんですか?」
いや、そんなことじゃなくね…?
今まで会ってきた女に、何回か俺がどんな人間か話したけど、どんなやつでも最後に1発ビンタお見舞いされてきたくらいには酷い人間だと思うけど?
「私、あの日元彼から助けてもらった日から、ずっと好きなんです。一目惚れです」
えーっ…
こんなに真っ直ぐな告白、今までにあったか?
全部を知ったうえで?
ていうかダメだろ…
こんなやつに執着したら
なんだよ、こいつ…
いや、どうせこいつも、心が満たされてねぇんだ
満たされてないから、俺みたいなやつを求める
「…いいですよ」
はっ?
「はっ?」
あっ、リアルに出た…
「仕事もしなくて構いません、私がお金をあげます。家も、空き部屋があるので使ってください。浮気も、私を気にせずしてください。賭け事も、お金は支給するので大丈夫です」
そうやって言ってつむぎちゃんは、なんでもないことみたいに笑った。
なんだよ…それ
…………最高か????
「本当に良いのか?先に言っとくけど、俺はお前が思ってるみたいな人間じゃねーぞ」
まあ、分かってるとは思うけど
先めっちゃ俺が普段してること言ったし
「いいえ、あなたは私のヒーローです!」
なんで?めっちゃ変なところで意地張るじゃん
「はぁ、分かったよ。その好きって感情がいつまで持つか、見ものだよ」
「えへへ、望むところですよ!」
好きな人の浮気現場見て、ヘラヘラ笑って生きてる奴の好きが、長く続くわけないのにな
何ちょっと様子見ようとしてんだろ、俺
今から最低なこと色々してやるつもりでいるのに
ていうかもう既にしてるのに
金に目が眩んだ…
んで、つむぎはまた太陽みたいな笑顔で笑うんだ
なんでもないことみたいに
◇